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ある薬師の一生  作者: 杉勝啓


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関白を降りる

秀次は自分の喘息が治まらないので、有馬に湯治に来ていました。


「殿…このようなところまで来て仕事をなさらずとも」

「山三郎か。これは仕事ではない。感状をしたためておったのじゃ」

「感状ですか?」

「ああ…叔父上がやっと諸侯を我が国に引き上げて下さると約束してくださったのでな。ようやく関白の座を降りられる。叔父上は天下の五分の一をお拾い様に、残りを私にとおっしゃって下さっておるが、今、所有している領地も含めてお返しするつもりだ。わしの領地は徳川殿に任せたいと思っておるが。今まで私に仕えてくれた者たちの身の振り方も考えてやらねばと思ってな。それぞれに感状をしたためておった。これがあれば、みな…他に仕官もしやすかろう。そなたも含めてな」

「私に能力がないばかりに、そなたにもすまぬ事をした。そなたがお国という女と思い合っていたのも知っていたが、私にはそなたが必要だったのじゃ」

「もったいないお言葉でございます」

「有馬で阿国一座が興行しているらしい。行って来るがよい。お国には私が謝っていたと伝えてくれ」

「ありがとうございます…」

「長く待たせてはすまなかったな」


「それはそうと淀の方様から見舞いの手紙が来ています。薬もあるようです」

「それはありがたい。あの方の薬はよく効く」

「ああ…あの若君たちが懐かれている薬師殿ですね」

「私も関白の座を降りたら、あの方のように自由に生きたい」

「それもよいかもしれませんね。なんなら、殿も私と一緒に阿国一座に参りますか」

「はは…それもよいかもしれんな。だが、両親には随分と無沙汰をしておる。一度、顔を見せようと思っている。秀勝、秀保と亡くなって、二人とも気落ちしておったからな」







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