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ある薬師の一生  作者: 杉勝啓


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お拾いの誕生

月満ちて茶々は玉のような男の子を生みました。

男子誕生の知らせを聞いて秀吉は急いで淀までやって来ました。門から走ってきたのでしょう。息があがっていました。

「おお~、なんてなんて美しい子じゃ」

「淀、ようやってくれた」


「抱いてみますか」

「おお、万福丸殿…」

秀吉は赤児を抱き寄せました。

「よしよし…よい子じゃ。父はお前のためなら何でもしてやるからな。お前のためなら、天下も世界もとってやる」

「あ…あの…天下は徳川さまに譲るおつもりだったのでは」

「なにを言っとる。れっきとした後継ぎがいるんだ。なぜ、赤の他人に譲らねばならん」

「な…人格も器量もわからない赤児を後継ぎになさるつもりですか?」

「わしのただ一人の子じゃ。当たり前ではないか。そうか…徳川か…あやつは油断がならん奴だ。それよりも、その前に秀次をなんとかせねばな」

「秀次様ですか?」

「ああ…秀次には関白の座は暫定的なものだと言い聞かせておったのに今になって関白の座から降りることを渋り始めたのじゃ」


ま…まさか…秀次様は関白の位は自分には荷が重いと言っておられた方だ。なんで、また…


「そうじゃ…淀…そなたは…この子と共に大阪城へまいれ」

「大阪城ですか」

「うむ。この度もこの子の養育はおねに任せようと思ったのだがな。鶴松のときに心ない者がそなたの評判を落としたであろう。おねがそれを気にしていてな。それなら、いっそ、この子共々大阪城にくればと言ってな。万福丸殿も来てくれるだろうな。薬師のそなたがいてくれれば、きっと子も丈夫に育つに違いない」

「ですが、大阪城には私より優れた医師がおられるのでは」

「それは無論じゃ。この子が無事に育つように万全を尽くすのじゃ。淀も、心丈夫じゃろ」


「あ…ああん…」

「どうした?父が気にいらんか」

「お乳は先ほど飲ませましたから、襁褓でしょうか」


このお拾いと名付けられた赤児の誕生により、大勢の人の運命が狂っていくことになります。




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