異母妹たちの縁談
北ノ庄城から帰ってきた万吉は元の日常を、過ごしていましたが、しょっちゅうやってくるのは片桐且元でした。
「助作、お前、暇なのか」
「まあ、そう言うなって。小さな頃は助作、助作と後をおいかけてきて、あんなに可愛らしかったのに」
「いつの話をしている。仕事の邪魔だ。もう帰れ」
「茶々様たちのことが気にならんのか」
「息災で暮らしているならいい」
「実はな、江様が佐治与九郎殿に嫁がれることとなった」
「佐治与九郎?確か大野水軍の総帥だな」
「与九郎殿の母君はお方様、お市の方様の姉君だ。江様とはいとこにあたられる。よい縁だと思うが。与九郎殿は文武に優れたお方だと聞いている」
「そうか。だが、なぜ、江なのだ?順番でいえば、一番年上の茶々が嫁ぐのが普通ではないか」
「いや、茶々さまは妹たちの行く末を見届けてからとおっしゃられてな」
「では、初でもよいではないか」
「ああ、初様は京極高次殿に嫁ぐ事になった」
「なんだと。確か、高次殿は明智に味方したため、逃亡して、行方知らずではなかったのか」
「龍子殿の嘆願で、許されて、しかも大名に取り立てられている。世間では高次殿のことを蛍大名などと言っている」
「どういうことだ?確か龍子殿のご夫君の武田元明殿も明智に味方したがため、命を落とされたはずだ。なぜ、龍子殿が……」
「秀吉様が龍子殿の美貌を見染めてな。今では龍子殿は秀吉様の側室だ。寵愛深い龍子様の願いに秀吉様も高次殿をお許しになられたのだ」
「そうだったのか。しかし、それでは龍子殿は人身御供ではないのか」
「そうでもないぞ。秀吉様は女性には優しいからな」
「………女というのはよくわからん。父上とあれほど愛し合っておられた義母上だって柴田殿に心を寄せられた」
「万福丸、いや、万吉殿も妻を娶ればわかるさ。女というものはなかなかいいもんだぞ」
「とにかく、江も初も、この縁で幸せになってくれればいいが」
「まあ、大丈夫だろ。初様と高次殿は相思相愛だし、江様のお相手の与九郎殿も人物に問題はない」
「初と高次殿が相思相愛?」
「ああ、小谷城にいた頃からな。みな、知っていたぞ」
「………」
「そうか。それでは後は茶々だな」
「ああ、秀吉様とおね様が良い縁がないかと考えられているのだが、なかなか難しくてな。茶々様と釣り合う年頃で、正室もいない武将となるとなかなかいなくてな。なんといっても茶々様は織田の血をひいておられる。秀吉様にすれば主筋にあたられる方だ。自分の子飼いの武将に嫁がせるわけにはいかず、かといって、敵対する武将に嫁がせるなどできるはずがない」




