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ある薬師の一生  作者: 杉勝啓


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茶々の予感

「それで…何かありましたか」

「うーん、何か落ち着かんのう」

「あはは…お気になさらずに…」


万吉は子どもを背中に乗せて歩き始めました。


「淀がな…また、身籠ってくれたんじゃ」

「!!」

「茶々が…」

「そうなのじゃ。もう子はできんと諦めておったのじゃが、奇跡じゃ。きっと、おっかぁがわしに遣わしてくれたんじゃ。今度こそ大切に丈夫になるように育てるんじゃ。それで…これから淀へ行こうと思ってな。もちろん、万福丸殿も一緒に来てくれるじゃろ。万福丸殿が来てくれれば淀も心丈夫じゃろ」

「しかし…江のこともありますし…」

「なら、江も一緒に来ればいい」

「よいな。頼んだぞ」


万吉の返事も待たずに秀吉は行ってしまいました。

「まったく、私は行くなんて一言も言ってないのに」

「薬師様?」

「ああ…部屋を3周したから次の子を呼んで来てくれるかい」

「うん…また…馬になってくれる?」

子どもは万吉の背中から降りると他の子を呼びに行きました。


それにしても茶々に子が…茶々も鶴松を亡くして悲しんでいたから、喜んでいるだろう。と…思ったのですが…

秀吉について淀まできたのですが、予想に反して茶々は打ち沈んでいました。

「異母兄上…」

どうしたというのだ?茶々のこの表情は?

茶々の様子に気が付かないのか秀吉は言いました。

「また、そなたがわしの子を身籠ってくれた。嬉しく思うぞ。万福丸殿も江も連れて来た。今度こそ丈夫に大切に育てるんじゃ」

「そう…異母兄上。久しぶりですね。江も。その子は江の子なのね」

「はい。姉上…完子と言いました」

「よい子じゃ。江の小さい頃に似ておる」

「あの…殿下…私…異母兄上に話が…」

「う…うん…そうか。異母兄妹、つもる話もあるだろう」


二人きりになり、万吉は言いました。

「どうしたんだ?茶々、お前は嬉しくないのかい」

「異母兄上…私…不安なのです…とても…何か悪いことがおこりそうで」

「何が不安なんだい。秀吉様はあんなに喜んでいたし…」

「………」

「腹に子がいるときは、何でもないことも不安になってしまうものだ。げんに私の患者にもそういう女がいたよ。お前には秀吉様も…江や初…私もいる。大丈夫だ」

「そうでしょうか…本当に…私…この子を生むのがとても…怖いのです」

「そんなことを言ったら、その子が可哀想だ。心を強く持たなければいけないよ。秀吉様だって、今度こそは大切に丈夫に育ててるって言っていたじゃないか。滋養のあるものを食べて、運動もして、元気な子を生むんだ」

「……」



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