大政所の死
定子の誕生などあってその喜びのせいか、小康状態を保っていた大政所が、また、寝付くようになりました。名医が集められ、加持祈祷も行われましたが、よくはなりませんでした。
「万吉さんか」
「大政所様、気が付かれましたか。医師を呼んで参りましょう」
「いや…ええんじゃ。元々、長くないのはわかっとった。人の何倍も生きたんじゃ。もう満足じゃ。旭や秀長も秀勝、秀保も待っている。皆、わしより早く逝くなど親不孝な真似をする」
「秀次さまが太閤殿下や智様たちにも知らせたと言っておりました。もうすぐまいりましょう」
「万吉さん、わしはの、日吉のような人でなしをこの世に生み出したことを後悔している。あいつがいまの地位に登りつめるまで何をしてきたか、わしにはわかっとるんじゃ」
「大政所様…太閤殿下は…まあ…時には褒められたことではないことをやってきたと私も思いますよ。でもね、それもこれも、この国から戦を無くすために必要なことだったんですよ。それに私の命を救ってくれたんです。ご存じかと思いますが、私の父、浅井長政は織田信長に敗れて自刃いたしました。その子である私は磔にかけられました。ですが、生前、父が手をうってくれていて助けられて、そのとき、見て見ぬふりをして、こっそり私を逃がしてくれたのは太閤殿下だったんです」
「そんなことがあったのか。そう聞けば、あいつも捨てたもんでもないかのう。じゃが、万吉さんも言っていたように他所の国に攻め入るなど阿呆なことをやっておる」
「それも大丈夫です。秀次殿が言っておりました。近々、朝鮮と和議が結ばれて、これからは、もう本当に戦などない世になると。太閤殿下にはいろいろ批判もありましょう。でも、大政所様はわかってあげてください」
「竹阿弥が言っておったが、万吉さん、あんた、優しい人じゃの」
は…大政所様…息が…
「誰が、誰か来てください」
「おっか様…」
「ばば様…」
医師が大政所の脈を見て首を振りました。
皆がやって来ました。秀次の子どもたちが万吉に尋ねました。
「薬師様…ばば様は眠っておられるのか」




