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ある薬師の一生  作者: 杉勝啓


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茶々

「義母上、なぜ」

「愛していたからですわ」

そう言ったのは茶々でした。

「茶々……義母上が柴田殿を愛していたと?誰がみても政略で結ばれた二人ではないか。それに義母上と柴田殿では父娘ほども年が違う。ましてや義母上が柴田殿のもとに参られてから日も浅い」

「父上と母上も政略で結ばれた間がらでしたわ。それでも父上と母上は愛し合っておられた。だから、母上は父上と別れてからは抜け殻のようになってしまわれた。でも柴田の義父上のもとに参られてからは母上は変わられた。明るくなったの。きっと年の差や共に過ごした年月の長さは関係ないのだわ」

「義母上は柴田殿を慕っておられたと」

「ええ、いかつい顔をして鬼柴田などと呼ばれていましたけど、お優しい方でしたわ。だから、私、柴田の義父上は好きでしたわ」

「私も好きでしたわ」

「私も」

他の二人の妹も言いました。


そういうものなのかと万吉は燃え盛る北ノ庄城を見て思いました。


おそらく、義母と柴田殿の間には自分にはわからぬ絆が、あったのだろう。また、柴田殿と妹たちとも過ごした時間は短くとも血の繋がりがなくともまごうことなく父娘であったのだろう。かって自分とお市の方にあった親子のような情が柴田殿と異母妹たちにもあったのだろう。


「ところで、茶々たちはこれからどうする?なんなら、私と一緒にこないか。糊口をしのぐような暮らしだが。お前たち3人ぐらいは養ってみせる」

「ま、万福丸様……それは」

片桐且元が言いました。

「いえ、私たちは羽柴殿のもとへ参ります。私、ずっと考えておりましたの。なぜ戦などあるのだろうかと。戦さえなければ父上も母上も柴田の義父上も死なずに済んだ。伯父の織田信長公が天下を従えつつあったけど、本能寺の変で倒れてしまいましたわ。おそらく、次の天下は羽柴殿のものでしょう。だから、私は羽柴殿を見極めようと思っていますの」

「見極める?」

「ええ、噂で判断するのではなく、自分の目でみて、判断しますわ。でも、そうね。初や江は、このまま、異母兄上と共に行くのも良いかもしれませんわ」

「嫌よ。お姉様と離れるなんて。ずっと、私たち、力をあわせて生きてきたのに」

二人の妹は今にも泣き出しそうでした。


母と別れ、今、また、姉と分かれるのは耐えられないのだ。長く離れていた自分とは違う。そう万吉は思うのでした。


「助作、今はお前を信じて異母妹たちを預ける。だが、異母妹たちになにかあれば私はお前を許さない」

「わかりました。茶々様たちは私にとっても主筋にあたる方。私の命に変えましてもお守りします。また、秀吉様もおろそかには扱わぬはずです」

「うむ。頼んだぞ」


こうして、万吉は片桐且元に異母妹たちを託して、彼女たちが乗っていた駕籠を見送りました。


「行ってしまったな」


いつの間にかそばに来ていた千吉が告げました。


「まだ、小谷城にいた頃、茶々が薔薇の棘で手をケガをしたことがあった。茶々はこのような傷ができては嫁にいけぬと、泣くので、私がもらってやると言った」

「それで」

「茶々は父上様の嫁になると言って、私は振られたのだ」


薔薇の棘で傷ついて、嫁に行けぬと泣いていた少女はもういない。いないのだとしみじみと万吉は思うのでした。





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