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ある薬師の一生  作者: 杉勝啓


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大政所

「おね、おっか様は見つかったか」

「ああ…お前さま、おっか様はここに、この野菜を江殿に届けて欲しいと」

「おお、そうか…あ…なんで…万福丸殿が?」

「万福丸?何を言っとる。この人は万吉さんじゃ。それより聞いたぞ。明なんぞに攻め入るとは?なんちゅうことを思いつくんじゃ。万吉さんから聞いたぞ。明ちゅうのはわが国よりでっかい国というじゃないか」

「はは…」

「わ…わかった。おっか様のいうことに間違いはない。やめる。やめるって」


…ってそんなあっさり…確かに明征伐なんぞやめたほうがいいが…

「万吉さんはわしのお気に入りじゃ。この城にはいつでも来るとええ」

「あ…ありがとうございます。じゃあ、私はこれで…」

「まあ、いいじゃないか。茶など飲んでいきなされ」

「は…はあ…」

「わしの連れ合いはの、元は織田様の茶坊主をしてたんじゃ。利休のような上品なものでないが、まあ、飲んでいくとええ」

「は…はあ…」


なかば、強引に大政所に連れて行かれました。

「お前さま、こちらの万吉さんのために茶を点ててくれんかのう」

「何じゃ。それはそうと、お前の姿が見えんと皆がさがしておったぞ」

「ああ…城内の庭の畑は陽当たりが悪うてのう。だから、城の外に畑を借りたんじゃが、なかなか終わらんと思っとったんじゃが、こちらの万吉さんが手伝うってくれての」

「それは…仲が世話になったのう。仲、出かけるときは誰かに言うなり何なりしていけ。皆が心配する。それと、畑仕事するならわしも連れていけ」

「わかった…わかった」


この方が大政所様のご夫君か。確か竹阿弥とかいう名前だったか。秀吉様とはあまり仲が良くないと聞いたが……

竹阿弥が点てた茶を飲みながら、そんなことを考えていました。

「そうじゃ、万吉さんはどこから来たんじや」

「淀…いえ、長浜から来ました」

「長浜からか、長浜ならしばらく暮らしたことがある。倅が信長様からその地をもろうて大名になったからと呼び寄せてくれたんじゃが迷惑なことじゃった」

「どうしてですか?ご子息が大名に出世されて呼び寄せてくださったのではないですか?」

「わしらは中村で慎ましく幸せに暮らしておったんじゃ。それがいきなりの城暮らし。そんなもん望んでおらなんだ」

「まあ、よいではないか。このように分不相応な暮らしをさせてもろうとるんじゃ」

……うん…竹阿弥殿は別に秀吉様を嫌っているわけではないのか…

「これから、長浜まで帰るのも難儀じゃろ。泊まって行くがええ。お前さんさえ良ければ何日でもいてくれ」

「あ…ありがとうございます。しかし、異母妹のことも気になりますし」

「異母妹さんが待っておられるんか。それじゃ無理に引き止めることもしれんのう」



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