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ある薬師の一生  作者: 杉勝啓


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朝鮮出兵前夜

「これを長浜にいる千吉というものに届けていただきたい」

淀城にしばらく滞在することを決めた万吉は長浜の自分の患者やその他諸々のことを頼む手紙をしたためました。それと同時に以前、徳川家康に頼まれていた自分の知識を書に起こすことにとりかかろうと思いました。何年もほっておいたので、家康ももう忘れているのではないかと思いましたが、書におこして人々の役に立つならと。そんなとき、淀城に徳川家康が訪ねて来ました。

「こちらにおいでになると聞きましたので。千年は淀の方様の異母兄上とは存じあげず失礼しました」

「いえ、私も自分の出自は内緒にしていましたので」 

「そう言っていただけると…実はお願いがあってまいったのです」

「私にですか?」

「実は殿下は無謀にも明に攻めこもうとなさっているようなのです」

「なんですって!やっとこの国が落ち着いてきたというのに、今は内政に力を入れるときではありませんか?」

「万福丸様もそう思われますか?実は淀の方様の発案のようなのです。万福丸様からどうか意見していただけないでしょうか?」

「わかりました。茶々に話してみます」

「よろしくお願いします」


何を考えているのだ。茶々は…あれほど戦のない世を望んでいたのではないのか。


「異母兄上、どうなされたのですか」

「明に攻め込むなどと信じられない話を聞いた。聞けば、お前の発案と聞いた。なぜだ?あれほど戦のない世を願っていたお前が」

「異母兄上、こちらをご覧になって」

茶々が示したのは地球儀でした。茶々は地球儀をカラカラと回しました。

「ここも、ここも、宣教師たちが布教していた国よ」

「それがどうした?」

「その国々が今、どうなっているかわかっている?」

「???」

「すべて、スペインやポルトガルの植民地になっているのよ」

「植民地?」

「早くいえば、属国ということ。その国の人々はゼウスの名のもとに搾取されているのよ」

「明は関係ないだろう」

「ええ、そうよ。でも、我が国の武威を示さねば、我が国も植民地にされてしまうわ」

「そのために関係ない国を巻き込むのか」


「殿下はに平和裡におさめようとバテレン追放令を出すに留めたわ。でも…ゼウスの教えそのものは禁止していないわ。数が多すぎるのよ。それらをすべて罰するなどできないわ」

「だからと言って…」

「遠いスペインやポルトガルまで攻めに行くことはできない。でも、近くの三韓や明ならどう?」

「そんなのは間違っている」

「異母兄上は相変わらず頭がお花畑ね。こちらが何もしなければ相手も何もしないと思っているの?」

「殿下はもう自分に憧れて若者が死んでいくのは見たくないと言って皆から武具を取り上げたではないか。それなのに、また、皆を戦場に送るのか」

「では、手をこまねいて、攻め入られるのを待っていろというの」

「そのような、起こるか起こらないかわからないことのために」

「起こってからでは遅いのよ」

「………」






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