逃げない
、
万吉と茶々が城に帰ると出迎えてくれたのさ秀吉と治長でした。
「殿下、いらしていたのですか?」
「夢を見たのだ。おことがわしにさよならと言ったのだ。それで…とりものもとりあえず来てみれば、出かけたとというから…もう…帰ってこないのではと」
「殿下?もしかして、殿下は私のことが好きなのですか?」
「当たり前ではないか」
「殿下にとって私は母上の形代ではないのですか?」
「そんなはずがあるものか。いや…お市の方様のわしの憧れの方だったがそれだけだ。おこととは違う。おことの美貌も才覚も気性もすべてが好きじゃ」
「申し訳ありません。私…殿下の心も知らず逃げようしましたの。でも…もう、逃げませんわ。異母兄上に父上や千丸の奥方、異母兄上の奥方子お話を聞いたから」
「そうか…そうか…で、千丸とは誰だ?」
「ふふ…私の初恋の君ですわ」
「なんだと…」
「妬かなくてもよろしいわ。奥様とお子様がいらして今は幸せに暮らしていらっしゃるそうですよ」
「う…そうか…」
「治長殿、私たちはお邪魔なようだ」
「そうですね」
万吉と治長はそっと側を離れました。
「治長殿、残念でしたね」
「え…?」
「茶々が市井で暮らせば、あわよくばと思ったのではないのですか?」
「いえ…私は妻がいますし、妻を愛してます。私の茶々様への想いは殿下がお市の方様に寄せられたのと似たような想いでしよう」
「それにしても…今さらながら、万福丸様が茶々様の気性が浅井長政殿に似ていると言ったのがわかるような気がします。逃げなかったのですね。浅井長政殿も…そして…茶々様も逃げないのですね」
「そんなところ、父上に似て欲しくなかった。逃げて欲しかった。逃げて、普通の幸せを掴んで欲しかった」
治長と千吉が話をしていると秀吉の家臣に声をかけられました。
「万福丸様、殿下がお話しがあると…」
「殿下が?私も殿下にお話しがあります。参りましょう」




