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ある薬師の一生  作者: 杉勝啓


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浅井長政と徳川家康

「戻るのか」

「秀吉様が陣屋に私の寝床を用意してくれているらしいからな」

「送っていこう」


二人でしばらく歩いていると、万吉が歩みを止めました。

「どうした?」

「徳川様の旗指物が見える」

「今、諸侯すべてがここに集まっているといっていい。当然、徳川殿も、ここにおられる」

「徳川様の息女は北条家の当主、氏直殿の正室と聞いたが、徳川様は娘が可愛くはないのか」

「可愛くないわけではないだろうが、今、関白殿下に逆らうなどできまい」


かって、徳川家康がわが子である信康を失った話を聞いたとき、その苦渋に同情もした萬吉ですが……今、また、娘を見捨てるのかと嫌な気持ちになりました。そんな様子をみて且元が言いました。

「お館様の話をしようか?」

「父上の?」

「もっとも、私も遠藤様から聞いた話なのだが」

「遠藤?」

「覚えていないのか?あれほど、お前を可愛がっていた方なのに」

「私を」

「お前もよく懐いておったぞ。遠藤様に肩車をされて模擬刀を振り回して、武人の矜持は命より尊いなどと一端の口を聞いておったぞ」

「私がそんなことを…」

「遠藤様が龍ヶ鼻の戦で討ち死になさったの時、お前は6歳だったから覚えておらぬのも無理はないが」

「お前の小さい時の話しはおいておき、お館様のことだが、お館様と徳川殿はよく似ておられる。容姿や性格ではなく生い立ちが似ておられるのだ」

「徳川殿も幼い時は今川家で人質の扱いであった。お館様も幼い時は六角家で人質として過ごしておられた。当主の姪を妻に迎えたというのも同じだ」

「徳川殿はその姪との間に信康殿と亀姫という子どもを儲けた。信康殿とその母の不幸はお前も知っているだろう」

「お館様はその六角の姫君と離縁されてしまった。当然、六角氏は怒った。その姫君にはなんの落ち度もなかったのだから。そして野良田の戦となったわけだ。お館様と徳川殿の違いはなんだと思う」

「己の身内のものでも切り捨てる非情さがあるかないかだ」

「しかし…父上も、そんな、なんの罪もない姫君を…その姫君にしてみれば…」


「お館様は、一度、浅井の家を捨てようとしたことがあったのだ。その姫君とともに下野しようとなさったそうだ。おそらく、その姫君と薬師として生きてゆくつもりだったのではと」

「父上はその姫君を…」

「愛しておったらしい。浅井の家を捨て、その姫君と生きてゆこうとした。だが、遠藤様がその姫君を説得した。その姫君は頷いてくれたという。そして、お館様と約束した場所には現れず、そのまま六角氏に帰られた」

「その後、観音寺騒動というのがおこってな。いわば六角氏の内紛なのだが、その六角氏の家臣たちがお館様に支援を求めてきたんだ。その中にはその姫君の父の平井加賀守もいた。その騒動を治めたお館様はその姫君の消息を聞いたときには、その姫君は亡くなっていた。一人の乳飲み子を残して」

「ま…まさか…それが私だと…」

「そうだ」


「お館様はお前を引き取り、お市の方様に預けた。お前はお市の方様によく懐いた」

「お館様が織田信長と戦になってもお市の方様は頑なに小谷城から出ようとしなかった」


「信長公が越前に攻め入ったとき、前線で、浅井の将と織田の将で小競り合いのような者がおこった。信長公とて、それらの首を差し出して恭順の意をしめせば、浅井を敵とはみなさなかっただろう」





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