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ある薬師の一生  作者: 杉勝啓


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小田原にて

「じゃあ、私は自分の陣屋に戻ります。薬師様はは関白様の陣にご滞在ください」

「ええ~、関白様の陣って、お兄さん何者なの?」

「このお方は淀の方様にお仕えしている薬師で、淀の方様の信頼も厚いお方だ」


えっと…使者殿はそういう認識なのか。まあ、信頼はともかく、茶々の脈も診ているからあながち間違いではないか。まあ、否定する必要もないか。

「では、これで…明朝、帰りの駕籠を用意してまいります」

「ああ、よろしく頼む」

そう言って使者は自分の陣に戻って行きました。


「ねぇ、帰りの駕籠って…もう、ここからいなくなっちゃうの?」

「ああ…異母妹のことが気になるからな」

「へぇ~、異母妹さんがいるんだ。羨ましいな」

「お袖殿に、兄弟はいないのかい」

「うん…おとうもおかあもいない。物心ついた時には一座にいた」

「すまない。悪いことを聞いてしまった」

「いいよ。それよりさ、さっき、あたしの名前を聞いて驚いてだろう?どうして?」

「それは私の妻と同じ名前だったから」

「そうなの。どんな人?」

「死んだよ」

「ごめん」


私の作る蜆汁が好きだよと言ってくれたお袖。いざとなったら刺し違えてでも私を守るって言ってくれたお袖。そして、次の世も出会いたいと言ってくれた…


「やだ…泣いているの?ごめんってば」

「いや…そなたのせいでは…もう…思い出すこともなくなっていたと思っていたんだがな」

「ほら、あたしの踊りを見せたげる」

そう言うとお袖は踊りだしました。見事な舞でした。

「すごいな。素晴らしいよ」

「ありがとう。あたし、辛いことがあったら踊るんだ。そうしたら嫌なこと忘れられるから」

「苦労したんだな」

「そうでもないよ。あたしは今の一座で育って幸運だった。今の一座じゃなきゃ、色を売らされていただろうから。座頭はすごいんだ」

「ややこ踊りで天下をとるってやつか」

「うん、でも、座頭にもちゃんといい人がいるんだ。豊臣秀次様に仕えている人で名古屋山三郎っていうんだ。男なのに綺麗な人だよ」

「豊臣秀次といえば関白殿下の甥にあたられる方だな」

「あたしらには、よく分からないけど、もし、関白様にお世継ぎが生まれなかったら、その方が関白様の跡継ぎになっていたかもしれないって」

「豊臣秀次…」

「まあ、誰が天下様になろうとあたしたちはどうでもいいよ。ね、お兄さん、あたしのいい人になってくれない?」

「色は売らないんじゃなかったのかい?」

「そんなんじゃないよ。あたし、お兄さんが気にいったからさ」

「私の妻は一人だけだ。未来永劫」

「変わっているね。関白様や、秀次様には何人もの奥方がいるってのにさ。まあ、いいや、また、どっかで会えるかな」

「いやにあっさりと引き下がるんだな」

「何?つきまとってほしいの?」

「そういうわけでは無いが…」


お袖と別れて秀吉の陣屋に向かって歩いているとそれぞれの陣屋には諸侯の旗が靡いてました。その中には片桐且元の旗指物や徳川家康のものもありました。


ああ…助作も来ているのか。ほぼ諸侯が集っていると言っていたしな。秀吉様もこれが最後の戦などと言っていたが、本当にそうなのだろうか?それにしても徳川家康様の息女は確か北条家の当主の氏直殿に嫁いでいたはずだが……








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