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ある薬師の一生  作者: 杉勝啓


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黄金の茶室

「殿下、淀の方様の駕籠が到着いたしました」

「おお、そうか…」

喜んで出迎えた秀吉でしたが籠に乗っていたのは淀の方ではありませんでした。

「そなたは…万福丸殿」

「お久しぶりです。関白殿下。茶々はまいりません」

「どういうことだ?」

「茶々は患っています。とても、ここまで旅をできる状態ではありません。なので、代わりに私が参りました。使者の方には私が無理を言いました。どうか、お咎めになられぬよう」

「そうか…しかし…茶々が患っているとは、命に別状はないのか」

「それはありません。茶々の病は鶴松を奪われ、そのため、乳が張ったため、熱が出た状態がつづいているのです。張った乳を吸ってくれる我が子がいれば、治ります」

「鶴松を淀のもとへ戻せと言うのか」

「はい。そのとおりです。その願いが叶わぬなら、茶々と鶴松、攫ってでも私の元へ引き取ります」


「陣屋の中へ入って、話そうか、淀がくると思って思って茶をたてていたのだ」

陣屋に入ると驚きました。そこには眩いばかりの黄金の茶室があったのです。

な…なんだ…このキンキラキンは…悪趣味な…私に茶のことなどわからぬがこれはあまりにも…

「驚いたか。この黄金の茶室は持ち運びができてようバラして組み立てるようにできておるのじや。この茶室を作れと言ったのは淀じゃ」

「茶々が…とても…茶々の趣味とは思えませんが」

「そうじゃ、茶々の趣味ではない。もしろ、利休の言うような、無駄を一切取り払ったようなものが茶々の好みだ。だが、あえて、この茶室を作れとわしに言った。だから、わしは茶々を手放せん」

「どうしてです?殿下には北政所はじめ、大勢の方々がいるではありませんか?茶々一人にどうして、こだわるのです?」

「おねはわしを純粋に愛してくれる優しい女だ。女たちの取りまとめも、よく、やってくれる。鶴松を任せたのもそれゆえだ。だが、おねなら、こんな茶室を作れなどとは言わん」

「悪趣味だと思ったのだろう?」

「はい…」

「正直だな」

「だが、ここで、軍資金が尽きたらどうなる?無論、そのようなことにはならんが…この茶室なら金に変えられる。要するに利休の言うようなわび・さびでは腹がふくれんということだ」

「………」

「それと同時に諸侯にわしの力を見せつけることができる。今、そのようなことを考えられる者はわしの側には淀しかおらんのだ」

「…ですが、茶々は…さぞや、自分で鶴松を育てたかったと思います」

「そうじゃな、この戦が終われば、鶴松を淀に返してやろう」

「本当ですか?」

「ああ、この戦が終われば、天下はほぼ手中に治まると言ってよい」

「ですが、小田原城は天下の名城、そう、やすやすとは落ちぬと思われません」

「だから、長期戦と考えて、淀を呼んだのだが……他の諸侯にも妻女を呼び寄せろと言ってやった」

「では、必ず、鶴松を茶々に返すという約束を違えませぬように」

「わかった。それで、淀の具合は本当に心配はないのだな」

「大蔵卿殿に処方を伝えて参りましたので、心配はいらぬと思います。私も茶々が心配ですので、戻ります」

「身体を厭うようにに伝えてくれ」



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