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ある薬師の一生  作者: 杉勝啓


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南蛮の医学なら

「そうだね。小夜殿は素晴らしいことをしたね。でも、後でお金がどうしても必要になったら、あのお金があったらって思うんじゃないかな。山内公の奥方は、普段は節約をして、いざというときのためにお金をとっておいたんだよ」

「そうか…でも…小夜姉さんはお金はまた稼げばいいって言っていたよ。困っている人に何もしなかったら恥ずかしいんだって」

「山内公の奥方も、そんな人が目の前に現れたら助けてあげたかもしれないよ。たまたま、そんな人に出会わなかったかから、お金を使わずにいられたのかもしれないよ」


「そうかぁ…そうかもね。じゃあ万吉さんは?」

「そうだなあ。私ならお袖と楽しいことをいっぱいしたいから使ってしまうな」

「万吉さんは人のためじゃなくて自分のためにつかうの?」

「いけないかい。私はお袖とうんと楽しいことをしたいんだ」


「うん。楽しいこと、いっぱいしよう。でも…やっぱり困った人がいたら助けてあげよう。もし、お金が必要になったら、また、あたしがこの身を売って稼ぐよ」

「それは私が嫌だ」

「どうして?」

「私は独占欲がとても強くてね。嫉妬深いんだ。お袖がそんなことをしたら私は気が触れてしまうかもしれないよ」

「でも…あたし…ずっと…」

「昔のことはいいんだ。冗談でもそんなことを言わないでおくれ」

「う、うん、言わない。万吉さんの気が触れたら嫌だもん」

「お袖」

「万吉さん」

二人は手をとりあいました。


「アノ…フタリノセカイニイカナイデクダサイ」

「あ!ジョアンさん、まだいたんですか?」

「エエト、カエッタホウガイイデスカ」


「そうだ。私、聞きたいことが」

「キキタイコト?」

「ええ、伊曽保物語のような南蛮の話がこの国の言葉になっているのなら、病に関しての書物もこの国の言葉になっているのではと」

「イガクショノコトデショウカ?」

「ええ、そうです。女房は患っています。その病気を治してやりたいんです」

「万吉さん、あたしの病は養生すれば治るんじゃないの?」

「あ…ああ…そうだよ。でも…もっと早く治せないかなって思ったんだ。ほら、私は薬師だから他の人の病も治したいから、新しいことが知りたいんだ」

「………」


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