南蛮人拾いました
「ああ、帰るのかい?だったらこれを持っていきな、数日、家をあけていたんだ。ろくな食い物おいてないだろう。米と魚の干物。炭と薪はあるかい。なかったら、あとでうちのひとに届けさせるよ」
「おい、小夜、うちだってそんなに余裕があるわけじゃ」
「何ケチくさいこと言ってんだい。お前さんがもっと稼げばいい話じゃないか」
「いや、そういうわけにも…ちゃんと返しにきます」
「そうかい。じゃあ、そういうことにしとこか。ついでのときでいいからね」
「はあ~、すごいな小夜殿は」
「はは…気が強くて口うるさいが、いい女を女房にしたと思っているよ」
「お前に惚気を聞かされる日が来ようとはな」
「お前だっていい女房をもらっているじゃないか。大事にしてやれよ」
「ああ…」
「ほら、お袖おぶさって」
「いいよ。あたし、歩けるから」
「そうかい。でも、辛くなったら言うんだよ。じゃあな、千吉、世話になった。小夜殿も」
「いいんだよ。それより、もう、お袖ちゃんを寂しがらせるんじゃないよ」
「う…うん…わかった。肝に命じるよ」
「小夜姉さん、万吉さんはもうどこにも行かないって、あたしの側にいてくれるって」
「そうかい。うんと、甘えてやんな」
「なあ、お袖、お袖はやりたいことはないのかい。やりたいこととか、欲しいものとか、なるべくかかなえてやるから」
「う~ん、そうだね。あたし、小夜姉さんみたいになりたいなあ。小夜姉さんはすごいんだよ。何でもできるんだ。お掃除もお洗濯も、お料理も、あと、加代ちゃんみたいなかわいい子も欲しいな」
「お袖だってできるようになるさ。私の子をたくさん生んで、で、私達は幸せになるんだ」
「うん、あたし、今、幸せだよ。でも…お掃除もお洗濯も全部万吉さんがやってくれてるから申し訳なくて」
「そんなことは気にしなくていいんだ」
そのようなことを言いながら歩いていると道端に倒れている人がいました。南蛮人のようでした。
「どうしたんです」
二人はそばに寄って声をかけました。
「お腹が…」
「お腹?痛むのですか?」
「いえ、お腹がスイタ」
「えっと…歩けますか?うちに来ますか?」
「アリガトウゴザイマス」
二人はその南蛮人を家に連れ帰りました。
どういう人なんだろう。身なりからすると宣教師のようだが……




