割り切れない思い
小谷城が落城し、浅井長政が自刃してから9年、本能寺の変がおこりました。
「あっけないものだな」
19歳となった万福丸こと万吉、千丸こと千吉は安土城下を眺めながら呟いていました。
「本当にな。まさか、あの織田信長が敵対勢力ではなく、おのが家臣に討たれるとはな」
「その織田信長を討った明智とやらも羽柴に敗れた」
「あの威容を誇った安土城もやがて、小谷城のように廃城となってしまうのだろうな」
「・・・・・言いたいことがあればいえ、そんな話をしたいのではないのだろう」
「・・・・・阿閉の家が気にならんか。いずれわかることだから言うが、阿閉貞征、その嫡男は明智に与したがため、一族もろとも処刑されたそうだ」
「そうか」
「それだけか。ほかにないのか」
「ない。もし、あのとき、阿閉に家に帰っていれば私も巻き添えになっていた。運が良かった」
「そんなに割り切れるものなのか」
「万吉はお館様に愛されていたからそう思うのだろう。だけど私は違う。その点、おまえが羨ましい」
「私がお前を羨ましいと言ったとき、お前が言ったではないか。私達は兄弟になろうと。自分は浅井の家を捨てるが、それでも浅井長政は自分の父であり、誇りだと。だから、私達が兄弟になれば浅井長政はお前の父でもあると。だから、私の父はお館様だと思っている」
「そう、そうだな。だが、私は浅井の家は捨てても異母妹たちのことが気になる」
「それは大丈夫だろう。何と言っても羽柴殿にとって茶々様たちは主筋に当たる」
「実は義母上が柴田殿に嫁ぐらしい」
「柴田、柴田といえば柴田勝家殿のことか。親子ほども歳が違うではないか」
「政略だ。珍しいことではない。むしろ、父上と義母上のようなものの方が珍しい」
「ところで、それはなんだ?」
「ああ、草団子だ。お師匠様の好物だから買ってきた」
「それで、お師匠様の様態はどうだ?」
「今は小康状態を保っているが、いつ。最後になってもおかしくない」
「そうか。お師匠様には長生きしてほしかったのだが」
「私もだ。血の繋がりもない我らを曲がりなりにも薬師として身の立つように育ててくれたのだ。感謝してもしきれん」
二人は浅井家が滅んだ後、浅井長政に仕えていた薬師に育てられました。時に厳しく、時に優しく慈愛深く育ててくれたのです。
「それにしても浅井家を裏切って長らえた阿閉の家も十年もたたずに滅んでしまったな」
千吉のそのつぶやきに万吉は思いました。
浅井の家を捨てたと言いながら、やはり、義母や異母妹たちのことが気にかかる自分は、千吉のように割り切れないな。




