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ある薬師の一生  作者: 杉勝啓


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茶々の評判 おねの評判

「お袖」

「お袖…いないのか」

「ああ、万吉さん、お袖さんなら千吉さんのところだよ」

「千吉の…まさか…お袖に何かあったんじゃ」

近所の人にお袖が千吉のところにいると聞いてあわてて、走り出しました。

「あ、万吉さん」


千吉の家にいくとお袖は呑気に団子をほおばっていました。

「万吉さん、帰ってきたの。お帰り。お団子食べる?」

「ああ…」

万吉が、団子に手を伸ばそうとしたのですが取り上げられてしまいました。

「小夜殿?」

「新婚の奥さんをほっておくような薄情な亭主にはお団子あげません」

「小夜姉さん、万吉さんは優しいから異母妹さんのことが心配だったんだよ」

「まあ、お袖ちゃんがそう言うならね。うちの人もうちの人よ。女が一人になったらどんなに無用心なのかわかんないのかねえ。うちに連れて来るぐらいの気をきかせてもいいじゃないか」

「すまん。言葉もない」

「ま、いいわ。もう、遅いからうちでご飯を食べていって、今日は泊まっていきな」

「おまえさん、あたしは食事の支度をしてくるから加代を見ていておくれ」

「わかった」

「あ、小夜姉さん、あたし、手伝うよ」


「はあ~千吉。お前、尻にしかれているんだな」

「はは…小夜はあれで面倒見がいいからな」

「加代も元気そうで何よりだ。子供の成長というのは早いな」

「ああ、私もわが子がこんなに可愛いものだとは思わなかった」

加代は千吉の身体にまとわりついて甘えています。


「それで、茶々様の様子はどうだったんだ」

「子が流れてしまっていてな。悲しんでいたが、秀吉様が何かと気づかってくれていてよかった」

「そうか…子がな…だが、むしろよかったかもしれん」

「なぜ、そんなことを言うんだ。茶々はすごく悲しんでいたんだぞ」

「まあ、聞け。実は茶々様の評判があまりよろしくないんだ」

「茶々の?どういうことだ」

「秀吉様の寵愛をかさに来て金を湯水のように使う贅沢三昧の愛妾。世間ではそう言われている」

「そんな…」

「反対に正室であるおね様は質素で慎ましい方だ。世間はどっちを、支持すると思う。秀吉様に侍っている他の方々だって贅沢をしないわけではない。だが、せいぜいが帯や着物をねだるぐらいだ。だが、茶々様がねだられたのは城や寺だ」

「寺?」

「お館様の法要をしたいと寺を建てることをねだられたそうだ。もっとも、おね様が反対されて立ち消えになったらしいが」

「だが、助作の話ではそれは食い詰めている者に仕事を与えるためで、また、普請をすることで、流通をはかれば、皆、潤うと、皆の生活の基盤を底上げするのが目的だと」

「そうだ。だが、どれだけの者がそれを理解できる。現に小夜だって茶々様には批判的だ」

「小夜殿は私たちのことを知っているのか」

「いや…だが…小夜が皆から聞いてきた茶々様の話だ」

「だが、秀吉様に仕えている武将たちなら茶々のことをわかってくれるのではないのか」

「片桐様はじめ、元、浅井家に仕えていた者たちならな。だが武闘派の武将たちはどうだろうな。理解はしていても、おね様に育てられたと言ってもいい方々だ。心情的にはおね様よりだ」


「もし、茶々様に子が生まれたら、その子は秀吉様の跡継ぎだ」

「秀吉様が健在ならいい。だが、もし、秀吉様に万一のことがあればすべての矢面にたたされるのはおね様ではなく茶々様だ」

「茶々は秀吉様の子を望んでいた。これからも子は望めると私が言ったら嬉しそうな顔をしていた」


「おね様に子がいればよかったのだがな。おね様の年を考えればそうもいかんだろう」


「さあ、できたよ。おまえさん、膳をだしとくれ」

「白い飯とは豪勢だな」

「近頃、景気が良いからね。なんでも、今度、関白になる秀吉様って人はあたしたちのような庶民の出だっていうじゃないか。きっとあたしたちに寄り添った祭り事をしてくれているんだよ。でも、あの愛妾がいたらだめだよね。取り立てた年貢を使って贅沢三昧だっていうじゃないか。偉い人のお姫様だったらしいけど、なんで、そんな女に引っかかったのかねえ」

















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