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ある薬師の一生  作者: 杉勝啓


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出雲のお国

「助作が来ない」

「なんだ、お前、あれほど片桐様が来るのをうざがっていたではないか」

「そうだが、もう半年だぞ。いくらなんでも」

「お前なあ、片桐様はもうお前の傅役でもなければ家来でもないんだぞ。いいかげん、助作と呼ぶのはやめろ」

「なぜだ?助作は助作で構わんと言っていたぞ」

「はあ~、片桐様の寛大さに感謝するのだな。片桐様だって治めなければならない領地があって秀吉さまのご用もあるんだ」

「あの男を秀吉様などと呼ぶな」

「何だ。まだ茶々様のことをこだわっているのか。茶々様が秀吉様のお子を宿したのは寵愛の深い証拠ではないか。それに秀吉様はお前の命の恩人ではないか。あのとき、竹中半兵衛殿の説得があったとはいえ、秀吉様が見逃してくれなかったらお前は死んでいたんだぞ。いわば信長公に逆らってまでお前を助けてくれたお方ではないか」

「そうだが、異母妹を、差し出してまで助かりたくはなかった」

「それはお前の思い込みだ。茶々様は茶々様で、しっかりとした自分の道を歩いているんだ、おそらく、片桐様はお前のそのような態度がわかるから顔を出しづらいんだろう」

「それより、お袖殿の様子はどうだ」

「ああ…急に悪くなるということは無いが…気長に養生するしか、今のところ。打つ手はない。」

「そうか。この様なとき薬師とは言っても無力だな」

「お前がやるべきことはお袖殿を大切にしてやることだ。そうだ、ややこ踊りでも見に連れて行ってやればどうだ。お袖殿の気も晴れよう」

「ややこ踊り?」

「出雲のお国と、申してな、ややこ踊りで各地をまわっているらしい。そのお国っていうのはすごい女でな天下を獲ると言っているらしい」

「天下?」

「ああ、自分の父親もそのお殿様も天下を取れなかった。だから自分が代わりに天下を獲ってやるんだと」


数日後、万吉はお袖を連れ立ってお国一座を見にゆきました。

「うん……助作……」

人混みの中から片桐且元を、見つけました。

「助作ではないか。半年も顔を出さずに」

「万吉…お袖も」

「長浜に評判の出雲のお国が、来ているというので見に来たのだ」

「そうか。私たちは千吉に勧められて見に来たのだが、たいした人気だな。歌も踊りも、芝居も素晴らしい」

「はは…知っているか?お国の父親はお館様に仕えていたんだ。お館様と共に戦い散っていったんだ」

「そうなのか…父上に…」

「あの…万吉さんって…本当にどういう人なの?」

「ただの薬師だよ、無力な…何の力もない…お国という女は女の身で天下を獲るという気概があるっていうのに…私は…」

「………」

「それより、疲れないか。もう帰ろうか」

「うん」

「ではな。助さ……いや……片桐様…」

「片桐様?どうしたんだ?あいつ…」



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