関白·豊臣秀吉
淀城が完成して、茶々はそこに移り住みましたが、暇をみつけてはしょっちゅう秀吉はやってきました。
「ようこそおいでくだされました。私は嬉しゅうございますが、よろしいのですか?このように頻繁におとずれて」
「茶々は気にせずともよい」
「それにしても、こんなに早く城が完成するとは思いませんでしたわ」
「茶々の喜ぶ顔が速く見たくてな」
「秀吉様のお心、嬉しゅうございます。大蔵卿局、酒の支度を」
茶々は自分の乳母であり、ずっと仕えていてくれる大蔵卿局に言いました。
部屋に入って寛いでいる様子の秀吉に酌をしました。
「どうだ。そろそろ、腹の子も動くか」
「ええ……とても元気な子のようです」
「そうか…男の子ならいうことはないのだがな」
「まあ、そればかりは神様の采配でございましょう。でも、姫でも可愛がってくださいね」
「それは、無論じゃ。茶々に似たら、さぞ、美しい姫じゃろう」
「そうでしょうか」
「…………」
「あの…どうか、なさいましたか?」
「わしはその腹の子を将軍の位につけてやりたいのだが」
「将軍ですか?今も申しましたように生まれてくるのは姫かもしれませんのに。それに、この子が将軍につくなら、まずは秀吉様が将軍にならなくては」
「そうなのだ。だが、将軍は源氏の血すじでなくてはならぬというのだ。そなたの婿という立ち場を得たが上様(信長)は平氏を自称しておられたからな」
「秀吉様は将軍様になりたいのですか」
「ああ…生まれてくる子のためにもな。それに、将軍になれば天子様から政治を預かったという形を取れるため、いまだに争っている輩に睨みをきかせることができる。だから足利義昭様の養子にしてもらえぬかと打診したのだがな、けんもほろろに断られてしまった」
「あの……これは伯父上が生前申されていたことなのですが、将軍様より偉いのは天子様だと」
「そうだ」
「天子様から政治を預かるなら別に将軍様でなくてもよろしいのでは」
「どういうことだ?」
「天子様が、幼くいなどの理由で政治がとれない時は、摂政や寒白という役職が置かれていたと聞きますわ」
「だが、今、関白の地位には二条兼実殿がついている」
「足利義昭様の養子になるよりは、公家のどなたかの養子となって二条様より関白の座を譲っていただくのはどうかしら」
「なるほど……確かに義昭様よりは公家の方が懐柔しやすそうだな。あ奴らは公家とはいっても貧乏だからな。金をちらつかせれば…… 」
「そうだわ。天子様を聚楽第にお招きすればよろしいのよ」
「天子様をか?」
「ええ……それには今のままではだめだわ。もっと豪華で気品のあるものに作り変えなくては」
「だが、わしの様な成り上がり者ところに天子様をお招きすることができるだろうか」
「有力な公家の養子となれば、もう、誰も秀吉様を成り上がりというものはなくなりますわ」
「ふむう」
「……あ……女の浅知恵でつまらぬことを申してしまいました。ご機嫌を悪くなさらないでくださいね」
「いや、興味深い話であった」
その後、秀吉は朝廷を動かし、関白太政大臣の地位につき、豊臣の姓を賜ります。それと同時に聚楽第の改築にも手をつけ、時の天皇·後陽成天皇を聚楽第に招くことになります。




