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ある薬師の一生  作者: 杉勝啓


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淀殿

数日後、片桐且元は秀吉に呼び出されました。

そこには藤堂高虎もいました。

「おお、よく来てくれた」

「今日はいつにもましてご機嫌がよろしいように見えますが」

「わかるか。実はなやっとわしに子ができたのじゃ」

「それはどなたかが秀吉様のお子を、身籠られたということでしょうか」

「そうなのだ。茶々がな」

「茶々さまが!」

「そうなのだ。今まで、おねを、はじめ、どの女もわしの胤を宿してくれなかったが、やっと茶々がわしの子を身籠ってくれたのじゃ。そうそう、そなたらを呼んだのは他でもない。茶々に欲しいものはないかと尋ねたらな城が欲しいというのでな。淀のあたりに建てることにした」

「城をですか?」

「そうだ。ここでは茶々も、気兼ねもするだろうしな、心安らかに子を産んでもらいたいのじゃ」

「城の普請はそこにいる藤堂高虎に任せることにした。高虎は築城にたけておる。且元は高虎に協力してくれ。茶々の願いでもある」

「茶々様がですか?」

「そうだ。その方らはもともと、茶々の父·浅井長政に仕えていたものだ。茶々も頼りにしておるのだろう」


秀吉の元を辞してから且元は高虎につぶやきました。

「まさか…茶々様が秀吉様のお子を身籠るとは……」

「男と女の仲というのはわからんさ」

「それにしても城をねだられるとは……」

「ふふ…それが茶々様の賢いところだ」

「どういうことだ?」

「且元、この戦乱の世で、どれだけのものが、飢えているか知っているか」

「それは……まあ…そのような中で城など建てることになればそのしわ寄せがいくのは民たちではないか」

「今までは民たちを普請にかりだしでいたが、茶々様はな、城の普請には人を雇って、ちゃんと賃金を支払うように秀吉様に約束させた。わかるか、仕事を与えて糧を得させようというのが茶々様の考えだ」

「それはいいが…賃金を払うといっても金が湧いてくるものではあるまい」

「そうだ。そこで、茶々様が見込んだのが佐吉だ」

「佐吉?石田三成か」

「ああ、あいつは戦は下手だが、そっちの方面には明るいからな。それで、秀吉様は三成を見込んでもっと大きな領地を与えようとしたんだ。だが、その三成の出世に待ったをかけたものがいたんだ。誰だと思う?」

「あいつをよく思っていない福島正則あたりか」

「違う。茶々様だ」

「なぜ、茶々様が三成の出世の邪魔をするんだ?」

「あいつが佐和山で見せている政治手腕が欲しいからさ。もし、あいつが今より大きな領地を与えられて遠くいってしまえば、秀吉様のもとで政治手腕を発揮できなくなる」

「それで、三成は秀吉様に言ったそうだ。秀吉様の側にいたいので、加増は辞退するとな。茶々様が三成にそう言わせたらしい」


「それで、三成は何をしようとしていると思う?」

「………」

「検地だ。信長も、まあ、やっていたが、そんなに規模は大きくない。秀吉様の名で大がかりな検地をして石高を増やすつもりだ」


「私も秀長様の元で学んでいたが、初めて普請を任されたのだ。大いに張り切っているところだ。お前も協力してくれるな」

「ああ……それはもちろん……茶々様の深い考えもわかった」


しかし……万福丸様に茶々様のことをどう告げたものか……


淀城が完成し、茶々がそこに住むようになった以後、彼女は淀殿とか淀の御方と呼ばれるようになります。

ちなみに淀君という名は徳川時代、彼女を貶めるために呼ばれた蔑称らしいです。








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