万福丸の幸せ
「片桐様、ありがとうございます。私が楼主と話をつけてやると言ったものの、やはり、不安だったのです」
「何、かまわんよ。片桐家の威光も秀吉様の名前もちらつかせたからな。動作もないことだ。遊女一人、自由な身にしてやることで万福丸様の気がすむならな」
「まったく、あいつは……片桐様に世話をかけて、それに、いまだに片桐様のことを助作なんて呼んで、まだ、片桐様を自分の家来かなんかだと思っているのか」
「はは…もう、私を助作と呼ぶのは万福丸様だけだ」
「えっと……なんかすみません」
「それより、お前に会ったら礼を言おうと思っていたんだ」
「私にですか」
「万福丸様の身代わりになってくれようとしたらしいではないか」
「いえ……私は何も……あいつは莫迦だから、私を身代わりにして、自分は万福丸ではないと言い張ればいいものを、わざわざ信長に自分が万福丸だと名のるものだから」
「お館様が生前、手をうっていてくれなかったら、あいつ死んでいたっていうのに」
「はは……さすがはお館様のお血筋だ」
「だが、万福丸様は感謝していたぞ。それにお前がいてくれたから幸せだったとも言っていた」
「あいつがそんなことを……まったく普段は生意気な口ばかりきいているくせに」
「照れてるんだろうな。わかってやれ。できれば、その役目、私がやりたかった」
「そういえば、片桐様はあいつの傅役でしたね」
「お館様が私を信頼して万福丸様の傅役につけてくれたのに、処刑されたときいて、なんで小谷城が落ちた時、万福丸様を連れて逃げなかったのか後悔しているいたんだ。でも…生きていてくれてよかった」
「あ…あの……片桐様…お願いです。あいつをこのままにしてやっておいてください。一介の薬師として幸せな一生を送らせてやりたいんです」
「わかっている。私もそれが万福丸様の幸せだと思う」
「それにしても万福丸様はお小さい時から変わらぬな。素直で優しくて、なのに、時々、すごく頑固だ」
「まったくです」
「万福丸様の気性がねじまがらず、お小さい時のままなのは、きっと弥助殿やお前が大切に育ててくれたからだろうな」




