女郎たち
「うん……万福丸様……」
別の遊女と遊んでいた且元でしたが夜も開ける前に遊女屋から出ていく万吉を見かけました。追いかけて遊女屋を出ようとしたのですが。
「あ…片桐様……一休みしたらもう一戦するって言っていたのに」
「急用ができた。また来る」
「きっとですよ」
「ああ」
且元は万吉を追いました。万吉に追いつき声をかけました。
「どうしたんだ。まだ、夜も明けないうちから。ついた女が気に入らなかったのか」
万吉は振り向きました。
「助作……」
「そうか。女遊びの一つも覚えた方がいいと思って連れて来たが、連れて来ないほうがよかったな、だがな、そのお袖という様な境遇の女はこの世にはごまんといる。同情ならやめておけ。深入りしないほうがいい」
「……だが……」
「そんなに言うなら見せてやる。そのお袖という女よりも悲惨な状況で生きている女たちを」
「……」
「ついて来い」
万吉が連れてこられたのはある川でした。女たちが川に入っているのが見えました。
「あの女たちは何をしているんだ」
「蜆をとっているんだ」
「冷たくはないのか」
「冷たいだろうな」
「あの女たちはな、戦があれば陣場女郎として大名と契約して戦場に赴き、兵たちの相手をするんだ。いくら、上のものが暴行、略奪を禁じても一般の民たちに狼藉を働くものは出てくる。だから彼女らをあてがうんだ。だが、戦がない時は男の袖をひくんだ。それでも客がつかない時はああして蜆をとって売って飢えを凌ぐんだ」
「知らなかった……そんな境遇で生きている女たちがいるなんて」
「弥助殿は、随分とお前を大切に育てたのだな」
「……」
「お前は優しい気性だから、そのお袖という女に同情したのだろう。だがな、世の中にはあの様な女たちもいるんだ。それを、皆、救うことはできまい」
確かにそうだ。助作のいうことは正しい。
それでも万吉は、また、お袖に会いに行かずにはいられなかったのです。




