お袖という女
万吉が連れて来られたのはある遊女屋でした。
「こいつに女を見繕ってやってくれ。優しい女がいい」
片桐は店のものに何か耳打ちしています。
万吉はいやもおうもなく、ある部屋に放り込まれました。
「ええと……」
ちらっと見やれば襖に二つの枕が並んでます。
「こんばんは」
遊女が、入ってきました。
「お客さん、初めてなんですって」
遊女がしなだれかかってきました。
「うふふ……教えてあげる」
「や……やめてくれ」
思わず突き飛ばしてしまいました。
「あ……すまぬ。そなたが嫌なのではない」
「いえ」
そう言ったかと思うと遊女は咳き込みました。
「どうした。大丈夫か……はっ……そなた……患っておるな」
「お……お願いです。楼主様には言わないで。ただでさえ、最近、客はつかないのに病気だなんて知れたら」
「だがな……そなたの病で客などとっていれば悪くなるばかりだ」
「だって……ちゃんとお客さんとらないとお食事もでないんだもの」
「食事もか」
「だから……お願い……ちゃんと抱いていって」
「楼主にはちゃんとお前が私の相手をしたと言っておくから。少し休め。今日だけでも眠れ」
「え?いいの?」
「ああ…だから少し寝ろ」
「ありがと……」
遊女は微笑みました。
まだ、朝になる前、遊女は目を覚ましました。
「あ……お客さんは眠らなかったの?ごめん。あたしが褥を占領してたから」
「いや……そんなことはいいんだ。それより、そなたはどうして、このような稼業に身を落としたのだ」
「ええと……わかんない……」
「……わかんないって?」
「だって、あたし、ここで生まれたんだもん」
「ここで?」
「うん。おっかさんはここで遊女をしていたけど、あたしを産んで直ぐに亡くなったんだって。楼主様は高いお金を出して、買ったのに死なれてしまった……だからおっかさんの分まであたしに稼げって」
「そんな理不尽な」
「理不尽?どうして?」
その遊女はキョトンとして、顔をを、傾げました。
「だから、ちゃんと、あたし、楼主様のために稼がなくちゃいけないの」
「食事も満足に与えられないのにか」
「だって……ちゃんとお客さんをとれないあたしが悪いんだから」
「かわいそうに……」
「かわいそうに?どうして?あたしってかわいそうなの?そりゃあ初めてお客さんとった時は痛かったけど、もう慣れちゃった。あたし、今日、眠ったから元気になったよ。だからしよ」
「………」
な…なんで……こんな娘がいるんだ?
「今日は帰る。楼主にはちゃんとお前が私の相手をしたと言っておくから」
「うん。ねえ、また、来てくれる?あたし、お袖って言うんだ。今度はちゃんとしようね」
「ああ…、そうだな」




