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ある薬師の一生  作者: 杉勝啓


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秀頼と千姫の結婚

1603年7月 大阪城城主、豊臣秀頼と徳川家康の孫娘、千姫との結婚が盛大に行われました。


淀殿や秀頼の対面の場で、周りの者に教えられたのでしょう。頭を下げて千姫は告げました。

「千でございます。末なごうよろしくお願いします」

「堅苦しい挨拶はよい。父母から離れて不安でしょうが、ここでは心安らかに過ごすが良い。こちらは完子じゃ。そなたの異父姉にあたる。来年には二条殿に嫁ぐことになっておる。それまで、仲良うしてたもれ」 「異父姉様…?」

「仲良くしてくださいね」

完子は微笑みました。


「さあ…堅苦しい事は、もう終わった。子どもたち同士で遊んでくるが良い」

「いきましょう。千姫様。秀頼も」

「あ!遊ぶには、その衣装では動きにくいわね。こちらへいらして」

千姫は完子に連れられて、ある部屋にきました。

「私と同じ背丈だから大丈夫だと思うけど」

「これは?」

「長浜の小夜おばさまが縫ってくださったの。おばさまはすこしずつ大きくなった着物を伯父上に預けてくださるの。秀頼の着物もね」

そう言って完子はウインクしました。


「完子ねえ、用意できた?」

「ええ…いきましょう」


三人は小夜が縫った着物をきて、庭に出ました。

「ここがいい。大阪城で一番景色のいいところだ。忠輝殿も絶景と言ってくださっていたよ」

「そう言えば、忠輝おじさまにお聞きしましたわ。秀頼様は鯉を捕るのがとても上手だと」

「秀頼だけじゃなくてよ。みてて」

完子は池に入って行きました。


「どうしたの?」

「あの…私…とても不安だったのです。お母様は、淀の方様はとても優しい方だとおっしゃってたのに、他の者は淀の方様はとても傲慢で性悪なお方だって。でも、実際にお会いしたら、観音様のようで」

「観音様か…」

「あの、私、何か悪いことを言いましたでしょっか」

「そうじゃないよ。観音様か…そうかもしれないな…」

秀頼は寂しそうな顔をしましたが、それがなぜなのか千姫にはわかりませんでした。


「秀頼…」

「あ!伯父上、それは?」

万吉が手にかかえていたのは姫リンゴでした。

「あ!姫リンゴだ!」

「姫リンゴ?」

「長浜でよく食べていたんだ。食べてみる?」

秀頼に手渡されて戦姫は一口かじりました。

「酸っぱあ~い」

「あはは…」


「秀頼、千姫、鯉捕れたわよ」

「相変わらず、完子はお転婆だな」

「教えたのは伯父上でしょう」

「はは…違いない。よし、火は私がおこしてやろう。完子、私の分の鯉も捕ってくれ」

「わかったー」

完子は手を振って、ふたたび池に入っていきました。


「木が足りないな。秀頼、千姫ととってきてくれるかい」

「ええ、行こう。千姫」


万吉は手を繋いで去ってゆく秀頼と千姫をみつめながら、火を起こしにかかりました。


そんな穏やかで、幸せな日々は完子が嫁ぐまで続きました。

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