背を向けた幸せ
「見るな秀頼」
左近の刺客に襲われ、万吉は咄嗟に秀頼を抱き寄せました。
刺客たちは、家康の陰共として従っていた服部半蔵らにことごとく討ち取られていきました。何体もの死体が転がっています。
「見苦しい!疾く、片づけよ」
半蔵らによって死体は片付けられていきました。、
「石田殿…なぜ…」
「いや…佐吉はこのようなことをするやつではない」
「助作!?」
「そうじゃ…おそらくは左近あたりの仕業であろう」
「徳川様…」
「伯父上…私は…私は生まれてこなければよかったのではないのですが」
「秀頼…何を言うんだ!」
「だってそうでしょう。私はじいも三成も大好きなのに…二人が戦うのは私のせいではありませんか。それに秀次様という方が亡くなられたのだって私が生まれなければ…」
「秀頼…違う、そんなことはない。決してお前のせいではない」
「そうですぞ…決して秀頼様のせいではございません」
「………」
「私は城に帰ります」
「何を言うんだ!お前の母上はお前を政争に巻き込みたくなくて、お前を私に預けたのではないか!太閤殿下も最後には市井で生きるのもよいと言った。長浜へ帰ろう。千吉や小夜殿が待っている。きっとお前の好きな団子も、また、作ってくれるよ」
「小夜おばさんにお伝えください。団子美味しゅうございました。蜆汁もすべて美味しかった。着物もありがとうございましたと。千吉おじさんや加代おばさん、百吉ちゃんにもよろしくお伝えください」
「秀頼…」
「私は逃げません。母上は一人で戦っておられる。城に帰り、もうひとあがきします」
「秀頼…お前も…また、逃げない道を選ぶというのか」
「はい、それが太閤殿下の子として生まれた私の宿命です」
その一言が万吉の胸を鋭く刺しました。万吉は祈るように腰を優しく、しかし祈るように掴み、同じ高さまで身を沈めました。
「よくお聞き、お前が恥じない生き方をしたいと言ったおじい様もときに非道なことをなさった。太閤もそうだ。それでも最後は逃げろと言ったんだ。だから、お前も逃げていい。いつでも帰っておいで。私は長浜にいるよ」
「ありがとうございます」
「万福丸さま…私が送っていきましょう」
「助作、頼む」
「完子も帰ります」
「完子、お前は私と一緒に長浜へ帰ろう。小夜殿はお前の着物を縫ってくれると言っていたよ」
「秀頼が逃げないと言っているのに私が逃げるわけにはいきません。それに伯母様が心配です」
「万福丸様…命に変えてもお二人は私が守ります」
「助作…秀頼と完子を、くれぐれも頼む」
「駕籠を用意させましょう。じいもお供仕ります」
「徳川様」
やがて、徳川家康が、用意してくれた駕籠に乗り、片桐且元に付き添われ去っていきました。その駕籠を見えなくなるまで、万吉は見送ってました。
あくる日の夜遅く、万吉は千吉の家に帰りました。
「なんだい。一晩以上も帰ってこないで、秀吉ちゃんとお完ちゃんはどうしたんだい?」
「ああ…二人は迎えが来て帰って行ったよ。小夜殿に団子美味しかったってお礼を言っていたよ」
「そうだったのかい。また、団子作ろうと思ってたんだけどね。秀吉ちゃんたちは今ごろおっかさんに甘えている頃かねえ」
「そうそう、万吉さん、お腹はすいてないかい?なんならすぐ用意するよ。ありあわせで悪いけどね」
「小夜殿…ありがとう。でも、お腹はすいてないんだ」
「そうかい…でも、腹が減ったら声をかけておくれ、用意するから」
「秀頼…完子…お前たちはこの幸せに背を向けてしまったのか」
花に一夜の宿はなくともー浅井長政伝
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