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かぐや姫、男の転がし方を学ぶ

 私とユリネさんには、共通する事と異なる問題があった。

 共通する事は『幸せな結婚』を望んでいる事。そして異なる問題とは、私は殿方との付き合い方に難があり、ユリネさんはいわゆる『上玉』との出会いの機会に乏しかったのだ。

 そこで、私はユリネさんからコミュニケーション技術を学び、ユリネさんには私の持つ人脈を使ってユリネさんの希望に添う相手を探して紹介する。そういう相互利益契約を結ぶ事となった。


 尚、ユリネさんからの要望により、師匠と弟子といった関係ではなく上下関係の無いフラットな関係を結ぶ事となった。どうやら私が弟子として下につく事が精神的に負担になるのだそうだ。

 それからは連日のように相席茶屋へと通い、その後に反省会を行う日々を過ごした。

 

「かぐやさんは余計な一言が多いんです。男なんて自慢話を引っ張り出して気持ち良くさせとけば良いんですよ」


「かぐやさん! まだ親交を深めていない段階で知識の間違いを指摘しない! それが相手の得意分野の時は特にです!」


「かぐや! 相手の特技を見様見真似で完コピすんな!」


「桜子! 男を汚い何かを見るような目で見ない! 貴女は何しにここに来てるのよ!」


 ユリネさんの指導は苛烈を極めた。

 そして日を重ねる毎に私への接し方が雑になってきている気がするが、これはユリネさんとの仲が深まってきている証拠だと思う事にした。ついでに私も敬称抜きで呼ぶようにしよう。

 ちなみに、ついでに桜子への指導もしていた彼女だが、こちらはもう半分諦めているようでお手上げ状態となっている。


「今日も実りある1日だったわね! 濃密な実践の日々の中で自分の成長を実感しているわ!」

「その自信はどこから来るのよ。かぐやは落ち込んだりしないの?」

「まぁ、それがかぐや様ですから」

「……言っておくけど、貴女も大概だからね?」

 

 何度失敗しても懲りない私達を見て、ユリネは肩をすくめ深いため息を漏らす。

 そんなユリネの横顔を見ながら、私は以前から引っかかっていたことを、それとなく問いかけてみた。


「ねぇ、ユリネ。これは以前からちょっと懸念してた事なんだけど……ユリネの方は大丈夫なの?」

「何の事?」

「ユリネの技術は確かに凄いわ。だって、短い時間の中であんなに人を虜にするんだもの。……だけど、色んな人を虜にしていくそのスタンスが、いつかトラブルを生むんじゃないかってちょっと怖いのよ」

「……大丈夫よ。私だってちゃんと考えてやってるし、確かにちょっと面倒な事もあったけど、ちゃんと対処してきたもの」


 そう言いつつ、ユリネの足取りは重くなっていた。それは、ユリネ自身も思う所があったからだろう。

 そして少し重たい雰囲気の中、ユリネがぽつりとつぶいた。


「私の母はね、私が生まれる前に男に逃げられたのよ。その後は極貧生活の中で私を何とか育ててくれて……けど、私がそんな母に恩返しをする前に、母は過労で倒れてそのまま逝っちゃったの……」

「……そうだったの」

「だから私は良い男を捕まえるの。私を守ってくれて、養ってくれる。それでいて、私に子供が出来たら子供も含めて愛してくれる。そんな旦那を手に入れるの。……どんなに時代が変わっても、支えてくれる人がいなかったら女なんて弱い生き物なのよ」


 ユリネは強い信念の元、これまで行動してきたのだ。

 ……けれど、その行動が違う形で実を結ぶ事になるのは、それから数日後の事だった。

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