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かぐや姫は相席茶屋マスター

「かぐや様、本当に行くんですか?」

「当然でしょ。思い立ったが吉日って言うじゃない」

「急いては事を仕損じるとも言いますけどね」

「残念ながら私の辞書には載ってないわね」


 うだうだ言う桜子を引っ張って山を下り、町へと向かう。

 

「あの、せめて私は外で待っていても良いですか? 私、殿方は苦手で……」

「桜子、これは貴女の為でもあるのよ。箱入り娘過ぎて男性に全く免疫を持たずに過ごしてきたんでしょ? このままじゃ結婚も出来ないじゃない」

「その時はかぐや様が一生私を養って頂ければ……」

「重いッ!」


 桜子の言葉をピシャリとはねのけ、私は足早に山を下りる。

 そんな私を見て諦めの溜め息をついた後、しっかりとした足取りで私の後を着いて来た。


 実の所、桜子が私専属の小間使いとなったのは、桜子のご両親からの申し入れがあったからだった。

 蝶よ花よと育て、その歳に似合わず純真無垢に育った桜子だったが、それ故に下手な所に働きに出ればどこぞの悪い男にたぶらかされるかもしれない。そう考えたご両親は、噂に名高い美姫ではあるが、貴人ではない為に侍女を持たない私の所に小間使いとしてどうかと娘を売り込みに来たのだ。

 実際、山奥の家に両親と3人で生活するのは何かと大変な事も多かった。そして歳を重ねる毎に縁談話も増えた事で、その忙しさもますます大変になったのだ。

 そういう経緯もあって、私は二つ返事で桜子を専属の小間使いとして雇う事にした。


 山を下りて町に着くと、賑やかな声があちこちから響いてきた。道端の商人が客引きに声を張り上げ、子どもたちが笑い声をあげながら走り回る。その中で、目指す茶屋の軒先に垂れ下がるのれんが目に入る。

 

「さぁ、桜子。準備はいい? 今の内にしっかりとシミュレーションしておきなさい」

「シミュレーションって何のですか?」

「それは勿論、良い男が居たら自分の魅力で虜するシミュレーションよ」


 ちなみに私のシミュレーションは完璧だ。

 今日の為に何冊もの恋愛小説を読み、そして相席茶屋から始まる恋物語の自作小説までも書き上げた。

 そんな私は既に相席茶屋マスターと言っても過言では無いだろう。


 そうして私は自信満々で茶屋の中へ足を踏み入れた……のだが。


 ……


 …………


 ………………


「ユリネちゃん、本当に可愛いね」

「えぇ~、そんな事無いですよぉ~。そんな事言われたら照れちゃいます」

「ぼ、僕もユリネちゃんの事可愛いって思ってたよ! そ、その。こんな可愛い恋人が居たら幸せだろうな、なんて……へ、へへ」

「もぅ、そうやって私を揶揄って。……でも、そう言ってもらえると冗談でも嬉しいな」


 相席している男達に分かりやすくモテているユリネという名の女性。

 そして会話に入れずポツンと座る私と桜子。

 

 ――どうしてこうなった。

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