大人の恋に一歩前進?
次の日、美麗は小走りで唯人を追いかけていた。
「白河さん!大丈夫?早すぎてついてこれなかったらいってね。」
「だっ大丈夫です!はぁはぁ。」
(唯人様の嘘つき!今日からちょっと落ち着くっていったじゃん!きついです〜。)
こんな感じで、美麗は怒涛の一週間を今週も乗り切った。
金曜日の夕方。
「白河さん。会社一度戻った後、約束のディナー行かない?」
「えっ?はい。行きたいです!」
「良かった〜こないだのお詫びも込めて、すごくいいお店予約したんだ!まぁ、また専務に頼ってしまったんだけどね。」
「専務美味しいお店沢山知ってそうですもんね。」
「そうなんだよ。ちょっときいたら何件もいい店教えてくれてさ、白河さんと全部の店に行きたいから、毎月付き合ってね。」
「えっ?はい!もちろんお供します!」
(「白河さんと」って今言いましたよね?唯人さん。私勘違いしますよ?勘違いしてもいいんですか?)
美麗と唯人は、会社に戻り、仕事を片付けた。
「白河さん。出られる?」
「はい!私も今終わった所です。」
「じゃあ行こうか。」
「はい!」
オフィスには誰も残っていない。
普通なら会社に文句の一つも言ってやりたい状況だが、美麗は文句の一つも出なかった。
(めっちゃしんどいけど、毎日部長といれて幸せ。こんな毎日が続いたらいいな。)
美麗はそんな事を考えながら唯人とディナーへ向かった。
店に着いて、席に座った二人は仕事帰りに来て少し後悔していた。
「白河さん。ごめんね。服装まで考えて無かったよ。」
唯人が予約した店は、かなりの高級店で、回りでは、ドレスアップした気品漂う人達が食事をしていて、二人は少し浮いてしまっていた。
「私たち会社帰りに居酒屋にいるカップルって感じですもんね。」
(あっ。しまった。カップルとか言っちゃった・・・)
「ははっそうだね。いつも何かやらかしてしまってごめんね。」
(カップルか〜白河さん・・・思わせぶりな事言ってくれるよな。勘違いしてしまいそうだ。)
料理がでてきてからも、二人は終始小声で話していた。
「なんだか居づらいですけど、お料理はものすごく美味しいですね!」
「うん。すごく美味しい!」
二人はなんだかいたづらをしている幼い頃の気持ちを思い出して、楽しくなっていた。
「白河さん、なんだか逆に楽しくない?」
「はい!私も思ってました。なんだか、小さい時にいたづらしてる時みたいです。」
「そうだね。」
二人は楽しく食事を終えて、店を出た。
「あ〜!美味しかった。ごちそうさまでした。」
「美味しかったね。でも、ごめんね。」
「いぇ。楽しかったですよ!いいお店で良かったです!私達、つまみ出されて出禁にならないかヒヤヒヤしました!」
「ははっ!確かにいい店だったね。門前払いされても文句言えなかったもんな。優しいオーナーで良かったよ。」
「はい!」
二人は初めてほろ酔いで一緒にいる。
「部長、ありがとうございます!」
「えっ?」
「色々。」
「じゃあ俺も。白河さんありがとう。」
「えっ?」
「ははっ!」
二人は顔を見合わせ、笑う。
「あっ!見て下さい部長!今日は満月ですよ!」
「本当だ。キレイだなー!」
「きゃっ」
付きを見ながら歩いていた美麗はつまづいて体制を崩した。
「危ない!」
唯人はつまづいた美麗を支える様に抱きかかえた。
二人はまた見つめ合い固まる。
「ははははっ!」
唯人は笑った。
「毎回こうして固まる場面あるね。」
美麗は、笑わない。
そして、唯人の首に手を回した。
「今日は、私が反省ですね。何かお詫びをしないといけないですね。」
美麗はもう、好きが抑えられなかった。
「じゃあまた抱き枕になってもらおうかな〜」
「ふふっ。なんだか、ぐるぐる回ってますよ。」
「確かに。」
恋愛経験があれば、二人はここでキスでもしていただろうが、この二人は一歩踏み出すことができなかった。
唯人は、美麗をゆっくり立たせた。
「白河さん。明日休みだし、家にこない?もう少し一緒に飲みたいな。」
「はい。」
唯人も美麗もほろ酔いで、他の邪魔な気持ちを押しのけて、一緒にいたい気持ちが二人を動かしていた。
ゆっくり歩いて、唯人の家に向かう。
「おじゃまします。」
美麗は、唯人の家の玄関に入ると、少し我に帰り、緊張していた。
「ソファー座ってて。何がいい?大体なんでもあるはず。」
「じゃあ、部長と同じので。」
「う〜ん。今日はさっきワインだったから、ワインにしようか?同じのの方が悪酔いしないと思うし。」
「はい。確かにそうですね。お願いします。」
唯人は、ちょっとしたつまみとワインを出した。
「じゃあ、かんぱ〜い」
少し飲みながらはなしていると!美麗は緊張が解けて、また一緒にいたい気持ちが抑えられなくなってきた。
(さっきみたいにくっつきたいな。)
色々な話をしながら、美麗はずっとそう思っていた。
二人は楽しく幸せな時間を過ごしていたが、夜の12時くらいになったときに唯人が時計を見た。
「白河さん、そろそろ帰る?車運転できないから、タクシー呼ぶよ?」
「えっ?さっきのお詫びの件は無しですか?」
美麗はほろ酔いで強気だった。
「そうだった!抱き枕になってもらう約束だったね。」
唯人も頑張って答えた。
「じゃ、じゃあ、風呂、順番に入る?」
「そうですね。お願いします。」
唯人は風呂の準備をして、美麗が着れそうな自分の服装を渡した。
「じゃあお先にすいません。」
美麗が風呂に入っている間、唯人は緊張で酒が進んだ。
「部長、お先でした。」
美麗が、唯人の服装を着て出てきた。
唯人は美麗を見て気付いた。
「あっ、下着。」
「あんまり見ないで下さい・・・」
美麗は、恥ずかしそうに隠す。
「ごっ、ごめん。買ってこようか?」
「大丈夫ですよ。それより部長、お風呂入って下さい。」
「分かった。」
唯人は、美麗を気にしながらも、風呂に入った。
美麗はドキドキしていた。
「はぁ〜。下着ない事まで考えて無かったな。恥ずかしかった。」
美麗がそんな事を考えていると、唯人が風呂から出てきた。
「えっ?部長早いですね。」
「俺風呂すぐ出るタイプなんだ。あっ、でもちゃんと洗ってるからね!」
「ふふっ。分かりました。」
「あのさ、服、違うの出そうか?何も考えてなくて、一番小さそうな服を選んだんだけど、白はまずかった。ごめん。」
「大丈夫ですよ。洗濯物増えちゃいますし、これでいいです。」
「ごめん。その・・・わざとじゃないから引かないでね。」
「えっ?わざとなんですか?」
「ちがう。」
唯人は美麗の頭を優しく叩く。
「部長、寝ましょ。」
「うん。ホントに一緒に寝るのか?俺、ソファーで寝るよ。」
「私の抱き枕のお詫びを受け取ってくれないんですか?」
「分かりました。一緒に寝よう。」
唯人は、美麗を優しくエスコートしてベッドに横になった。
「ふふっ」
美麗は笑った。
「どうかした?」
「なんだか芝生を思い出して。また、肩当たってますね。」
「ははっ。そうだね。ベッド狭くてごめんね。」
「いえ、部長が私を抱き枕にしてくれたら狭くなくなりますよ。」
「じゃ、じゃあ。」
唯人は美麗を優しく抱きしめた。
(これ、寝れないやつだわ〜。でも芝生の時は寝てたから残念だったけど、こんなに幸せなんだな。)
「白河さん、腕、重くない?」
「う〜ん。ちょっとお腹が苦しいですね。」
美麗は、唯人の腕を両手でつかみ、少し上に動かした。
「ちゃっ、ちょっとそれは!」
唯人は腕に当る柔らかい感触に焦っている。
「部長。知らないと思いますけど、芝生の時、掌で触ってたんですよ。だから大丈夫です。この方が包まれている感じで、いい感じです。」
「えっ?ホントに?眠っていたとはいえ、ホントに申し訳ない。」
「ふふっ。嘘です・・・怒りました?」
「騙したお詫びはある?」
美麗は唯人の手を取り、胸においた。
そして、唯人の手を持ったまま唯人の方に向いた。
「これで許してくれますか?」
唯人は顔が真っ赤になった。
「うん。すごく許す。」
「ははっ、すごく許すって?日本語がおかしいですよ?」
「白河さんのせいで、頭が変な感じなんだよ。」
「じゃあ辞めますか?」
「このままで。」
「はい。」
二人は見つめ合ったまま目を閉じていた。
しばらくすると、美麗の寝息が聞こえる。
「白河さん・・・寝た?」
美麗は返事をしない。
(寝ちゃったか。今週も疲れただろうな。)
「ありがとう。」
唯人は美麗の頭をなで、優しく抱きしめて目を閉じた。
(寝れるわけがな〜い!)