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妄想は宇宙を超える

美麗は休日に図書館へ行く事が多かった。

「最近妄想の限界を感じる。私も恋、してみたいな〜。」

そんな独り言をいいながら、本を探す。

「今日はいい本に出会えるかな〜。

神様妄想の材料を下さい!休日を使ってでも平日を生きるためのイメージを必ず見つける!」

美麗は、一冊本をとり、読み始める。

「何々〜。宇宙を超える愛。壮大な題名!」

美麗は本を読み始め、妄想の世界へ。


私は白河美麗。

今は西暦4025年。

地球は、戦争の影響で住めなくなり、裕福な人類は、火星へ移住していた。

私は裕福とはほど遠い家庭に生まれ、朽ち果てた地球で暮らしている。

美麗は思う。空気の無い火星に建物を建てて、空気のある環境を無理に作るなんて、無駄だと。同じ様に地球で頑張れば、人類が元の生活にいつか戻れると。

火星では、不思議な事に、男の子しか生まれないらしい。重力が関係しているとか、太陽との距離が影響しているとか言われている。そのため、火星の富裕層たちは、半年に一度、花嫁、探しに地球にやって来る。

今日はその日。

数週間滞在し、それぞれ良い人を見つけ、火星へ連れて行く。

新しい法律で、地球に残る人たちはそれに逆らえない。

もちろん、火星に行けば幸せな毎日が約束されているから、拒む者などいないが。

「美麗。あなたまだそんなカッコして!」

美麗の母が叫んでいる。

「私は地球が好きだから、別に選ばれなくてもいい。」

「もしこの近くに火星からのロケットが着陸したらチャンスなんだから、ちゃんとしなさい!」

美麗の母は地球で暮らす大変さを娘に味あわせたくないと、必死だ。

「分かった。着替えてきます。」

「ちゃんと水浴びもするのよ!」

もうこの時代、地球にお湯は存在しない。

火を起こす資源さえも一般家庭では手に入らない。

暑くても寒くても水を浴びるほかなかった。

美麗は、川で水浴びをする。

「冷た〜い!風邪ひくよ。これでロケット下りて来なかったら怒るからね!」

美麗はブルブル震えながら、一番キレイな服に着替える。

「着飾っても、髪はボサボサだし、選ばれるはずがないよね。」

美麗は半ば諦めていが、ロケットは美麗の住む地域に着陸した。

若い住民たちは、火星での生活を夢見てロケットから下りてきた富裕層達に群がる。

富裕層たちは、地球にやってくると、その地域の最高のおもてなしを受ける。

火星に比べれば貧相なもてなしだか、それなりに楽しみにしてやって来る。

富裕層達に群がる若者たちを横目に、美麗は川の方へ歩いていく。

「あ〜バカバカしい。私は貧しくてもここが落ち着く。」

美麗は川を見ながら、ぼっとしていた。

バシャーン!

「誰か!助けて!」

美麗の近くで助けを求める声が聞こえる。

「大変だ!誰か川に落ちた?」

美麗は泳ぎに自信があったが、今は冬だ。

美麗は迷ったが、川に飛び込んだ。

凍える様に水が冷たい。

美麗は必死に川に落ちた人をつかみ、川岸にたどり着いた。

「はぁはぁはぁ。大丈夫ですか?」

どうやら溺れていたのは富裕層の男の様だった。

「ありがとう。ありがとう。寒い。寒い。」

美麗も寒くて凍えそうだった。

「服を脱いで下さい!」

美麗は男の服を脱がせて、自分も服を脱いだ。

美麗は男にくっついた。

「えっ!?ダメだよ。」

「黙って。こうしてくっつくくらいしか温かくなる方法がないの。私の濡れてないコートがあるから一緒にくるまろ。」

男は驚いた様子だったが、美麗の温かさに気づいて、大人しくなった。

しばらく二人はくっついて寒さをしのいだ。幸い、天気は晴れていて、まわりには木一本すら生えていないため、太陽の温かさで二人は落ち着いた。

「ごめんね。」

富裕層の男は美麗に謝る。

「大丈夫。二人とも生きてて良かったね!」

富裕層の男に、美麗は太陽の様に眩しく見えた。

「君、名前は?」

「白河美麗だよ。」

「キレイな名前だね。君にぴったりだ。俺は、奏唯人。」

「唯人くんか。」

「俺さ、花嫁を探さないといけなかったんだけど、興味なくてさ。そんな事より、火星には川がないんだ!だから川を見たかった。ほんとは海の近くに行きたかったんだけど、それは叶わなかったから、せめて川をみたいと思ってここにきたんだ。で、水を触りたいと思って手を伸ばしたら、落ちちゃってさ。マヌケだよな。」

「ホントにマヌケ!私がいなかったら死んじゃってたかもしれないんだよ!気をつけないと!」

「確かに。危ない所だった。美麗は命の恩人だよ。」

「ふふっ。しばらく地球にいるんでしょ?もう危ないとこ行かない様にしてね。」

「うん。」

唯人は、美麗の体に目をやる。

「ちょっ!ちょっと!見ちゃダメだよ!」

「花嫁とか興味なかったんだけど、美麗には触ってみたいって思ってしまった。ダメ?」

「ダメ。」

「じゃあ、俺と火星に来て欲しい。俺の花嫁になってくれ!」

「何?触りたいから〜?」

「それだけじゃないけど。美麗となら結婚したいって思ったんだ。」

「う〜ん。私、地球が好きだから地球にいたいんだ。だからロケットの周りにも行かなかったの。まぁロケットの周りにいた所で私なんて見向きもされなかっただろうけど。」

「そんな事ない!美麗は素敵な女の子だ!・・・一緒に来るのは嫌?無理やり連れて行くのは嫌だから。」

「う〜ん。私は地球にいたい。ごめんなさい。私、なんで人類は火星にいるのか良く分からないんだ。空気や水のない火星ですごい設備を作って暮らせるなら地球で暮らせばいいと思うし、そしたらいつか、人類は元の生活に戻れるって思うんだ。」

「分かった!じゃあ、人類が地球に帰ってくる様にする。何年かかっても俺がそうする!だから待っててくれない?それならいい?」

「分かった。じゃあ唯人が地球に帰って来られたら、その時は結婚してもいいよ。」

「やった!頑張るぞ〜!」

「唯人は火星ではすごい人なの?そんな事できるの?」

「ふっふっふっ。俺はすごくないけど、父さんがね。火星の王なんだ。だから俺は王子?になるのかな?」

「えっ!?王子様なの?私みたいなの連れて帰ったら叱られちゃうよ!」

「なんで?美麗は姫に適任じゃん!綺麗で強くて優しくて。自分が火星に行って幸せになる事ばかり考えてるロケットの周りの人たちとは全然違う!」

「私は火星に行きたくなかっただけだよ。」

「あ〜確かに。早く火星に帰って改革を進めたいんだけど、しばらく地球に滞在なんだ。その間、一緒にいてくれる?」

「うん。私なんかで良ければ喜んで。」

「ちょっとだけ触っていい?」

「ダメ。」

「ダメかぁ。」

美麗は唯人の頬に手をあて、キスをした。

「今はここまでね。」

二人は恥ずかしそうに顔を伏せた。


太陽の光が濡れた服を乾かしてくれた。

二人は服を来て、美麗の家に向かった。

「お母さん〜。」

「美麗どこにいってたの?早く宴会場へ行きなさい!」

「その必要は無くなったかも・・・」

「えっ!?この方、王子様じゃないの?!なんでうちに?」

「私、唯人くんと結婚の約束をしました。」

母は涙を流し喜んでいる。

「良かったね。美麗、離れて暮らすのは寂しいけど、火星で幸せになるんだよ!」

「お母さん。私は火星には行かないよ。」

「えっ?」

唯人は美麗の母に話かける。

「奏唯人です。娘さんは火星には連れて行きません。火星の人類全員が地球に帰ってきます。何年かかってもそうしてみせます!だから、地球に帰って来た時は、美麗と結婚させて下さい!」

「はぁはぁい。」

美麗の母は驚いた様子だったし、火星に娘を連れて行かない唯人に不満はあったが、唯人の気迫に押されて結婚を認めた。

唯人は、地球の滞在期間、美麗の家で暮らした。

そしてあっという間に火星へ帰る前日になった。

「美麗。明日火星に帰る事が決まったんだ。」

「そっか。寂しくなるなぁ。」

「なぁ美麗!やっぱり火星に来てくれないか?一緒に地球に帰れる様に頑張る事だってできるだろ?」

「ごめんなさい。私、お母さんを残して火星には行けない。それにやっぱり地球にいたい。」

「分かった。少しでも早く地球に帰れる様に俺がんばるから!」

唯人は美麗を抱きしめた。

「なぁ美麗・・・」

「いいよ・・・でも必ず戻って来てね。」

この夜、二人は沢山愛し合った。

そして、出発の朝が来た。

「美麗。必ず帰ってくるから!」

「うん。待ってるね。」


唯人を乗せたロケットは火星に向かって飛び立った。

「唯人。必ず帰ってきてね〜!」

美麗は唯人が乗ったロケットをずっと見ていた。

何やらロケットが光出した!

ドッカーン!!!

ロケットは空中で爆発した。

美麗は驚きのあまり、固まってしまったが、我に返り、叫ぶ。

「きゃー!!唯人?ゆいとー!」

泣き崩れる美麗を母は抱きしめる。

「なんて事なの!美麗・・・」

母は言葉が出ない。

その代わり、力いっぱい美麗を抱きしめた。

「お母さん。唯人が!唯人が・・・。絶対戻ってくるっていったのにー。」

母はいつまでも美麗を強く抱きしめた。



美麗はそれから抜け殻の様になり、家に閉じこもっていた。

「美麗。ちょっと散歩でも行かない?」

「いい。」

「いつまでも塞ぎ込んでたら唯人さんに笑われるわよ!」

「お母さん。なんか気持ち悪いの。」

「気持ち悪い?」

母は美麗のおでこに手をあてる。

「熱はないわね・・・美麗!あんた!もしかして、唯人さんの子がお腹にいるんじゃない?」

「えっ?唯人との子?」

「そうよ!きっとそう!」

美麗は一瞬思考が停止したが、理解できた様だった。

「えーん。私を残して独りぼっちにしてって思ってたけど、独りじゃないんだね。ゆいとー!」

「良かったね。美麗。」

「お母さん。私頑張っていいお母さんになるね!」

「そうだね!」


数カ月がたったころ、美麗は元気な男の子の赤ちゃんを抱いていた。

「お父さんに似て男前だね〜ばぁ」

赤ん坊はニコニコ笑っている。

「唯人。私幸せだよ。ありがとう。この子の名前、唯人に考えて欲しかったな。名前何にしようかな〜?どんな名前がいいでちゅか?」

「美麗!美麗!」

美麗の母が駆け寄ってきた。

「お母さん、この子がびっくりしちゃうじゃん!」

「はぁはぁはぁ。ごめんなさい。それより!空からロケットが何台も降りてきてるのよ!」

「えっ?どういう事?」

二人、いやっ、三人は急いで外に出た。

「ほんとだ!ロケットがいっぱい!」

美麗の住む地域にも何台か着陸したのが見える。

しばらくすると、

「美麗!美麗!」

耳に残る愛おしい声が聞こえる。

「私、ダメね。唯人はもういないのに。この子を育てて行ける様に強くならなきゃ!」

「美麗!美麗!」

「私、ダメダメだ。」

美麗は涙を流して座り込む。

「唯人。唯人。会いたいよ〜!」

「ここにいるって!」

「えっ。なんで?!なんで?唯人が?私ついに幻覚までみえっ」

唯人は美麗を抱きしめる。

「ホントに唯人なの?」

「あぁ!必ず帰ってくるっていっただろ?」

「うん。ゆいとー。死んじゃったと思った〜。」

美麗は唯人の腕の中で涙を流して喜んでいた。

唯人は美麗の抱いている男の子に気付いた。

「美麗!もしかして、この子、俺の子?」

「そうだよ。一緒に名前考えようね。」

「嬉しい事だらけで頭がパンクしそうだ!」

美麗と唯人はしばらく抱きしめ合った。

男の子はケラケラと笑っていた。


火星に帰る際に、唯人達は、ロケットが爆発しそうになり、非常用のポットで脱出したそうだ。

救援がやってきて無事に火星に帰れたようだったが、唯人たちが火星に帰ってすぐに火星の設備に不具合が出始めた様で、全ての人が地球に帰れる様にロケット製造が始まり、約1年後、ようやく地球に出発できる様になったそうだ。


「美麗がいった通り、人類は地球で暮らすべきなんだよ。今回の事できっともう人類は火星には行かないだろうな。」

「そうでしょ?この地球で、三人で幸せになろっ!」

「そうだな。この子の名前何にしようか〜」



「はぁ。満たされた〜!お休みは邪魔が入らないからいいよね〜。」

美麗は現実世界に帰ってきた。

図書館のベンチで幸せな気分に浸っていた。

「さっ、帰ろう!本一冊借りて帰っと。」


美麗は本棚へ歩いていった。


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