呪いなんて無い!ただずっと一緒に。
ブーブーブー。
美麗の携帯がなった。
「誰だろ?知らない番号だな。
もしもし。」
(あっ、美麗さんか?)
「えっ?えっと〜」
(すまん、唯人の叔父だ。君の会社の社長の。)
「あっ!お疲れ様です!」
美麗は、寝転んでいたが、気づくと正座していた。
(美麗さん、唯人はなんで会社を辞めるなんていい出したんだ?教えてくれ!)
「えっ?どういう事ですか?」
(美麗さんも知らんのか?今日、唯人が辞表を出しに来た。理由を聞く間もなく、帰ってしまってな。)
「そうなんですね。私、分からないです。おとといの夜に振られちゃったんです。何も聞かずに別れて欲しいって。」
(はい?!あいつ一体何を考えてるんだ!会社の事は許せても、美麗さんの事は許せない!唯人の所へ一緒に行こう!これから迎えに行くから住所を教えてくれ!)
「唯人さんは、何も無いのにこんな事しないと思います。何か理由があるんですよ。だから私は身を引きます。」
(分かってるよ。私が何年唯人の面倒見てると思ってるんだよ。だ・か・ら!行くんだよ!あいつ一人が背負う事なんてない!これは業務命令として聞いて欲しい。)
「はい・・・分かりました。準備しておきます。」
(すまないね。よろしく頼むよ)
社長と美麗は唯人のマンションの前に着いた。
ピンポーン。
「はい。叔父さん、今日は一人にしてくれ。」
「だめだ。今すぐ開けろ。これは業務命令だ。」
「分かりました。」
唯人は仕方なく、エントランスの自動ドアを開けた。
「唯人、開けてくれ。」
ガチャ。
ドアが空き、仕事姿のままの唯人が出て来た。
「入るぞ。」
「あぁ。みっ、美麗!」
「美麗さんも当然理由を知る権利がある!お前は付き合ってたんじゃない!婚約してたんだ!その重みをしっかり理解しろ!」
「分かった。」
三人らリビングで座った。
「で、唯人。お前は何故こんな事をするんだ?」
美麗は下を向いている。
唯人も下を向いて、なかなか話しださ無い。
「黙っていても分からん!」
「かい・・・会社のた」
ピンポーン。
「誰だ!こんな時間に!唯人、来客の予定があったのか?」
「無いよ。宅配便か何かじゃないか?」
唯人は無気力で立ち上がろうとしない。
「私が出る。」
叔父は立ち上がり、インターホンのモニターを見た。
「はい?!?何で!?」
「どうしたの叔父さん?」
「さっ、さっ、西園寺さんが来てる。」
「西園寺風香か?」
「も、後ろにいるが、社長だ!唯人、とりあえず、上がってもらうぞ!美麗さん、悪いがお茶の準備を!」
美麗は、お茶など入れる気にならなかったが、仕方なくお茶の準備をした。
叔父は玄関へ迎えに出た。
ガチャ。
「西園寺社長、今日はどうされたんですか?まっとりあえずどうぞ。叔父は、西園寺親子をソファーに座らせた。」
美麗はお茶を出し、唯人の隣りに座った。
「で、今日はどうされたんですか?」
「実は・・・申し訳ない。」
西園寺グループの社長が唯人と美麗に向かって頭を下げている。
唯人は無気力な感じであまり反応がない。
代わりに美麗が話出した。
「あの〜何のお話でしょうか?」
「あなたは、唯人くんの婚約者ですか?」
「元婚約者です。先日ふられてしまいましたので。」
「その理由はご存知で?」
「いえ。その理由と今日辞表を出した理由を社長と聞きに来た所です。」
「はぁ。辞表まで・・・唯人さんは、律義と言うか、バカがつくほど真っ直ぐと言うか・・・うちの娘をもらってくれていたらなぁ。」
西園寺は話しながら立ち上がり、風香の腕を持ち、床に二人で正座をした。
「本当に娘が申し訳ない。」
土下座をして、謝った後、風香の頭を持ち、下げさせて、「さぁお前も謝罪しろ。」
風香の目には涙が流れている。
「ごめんなさ〜い。本当にごめんなさ〜い。」
唯人は無気力のまま見ているが、叔父と美麗は意味が分からず困惑していた。
唯人の叔父が話出す。
「あの、とりあえず頭を上げて下さい!一体どういう事なんですか?」
「実は・・・うちの娘が。」
「娘さんが?」
「御社の会社の取引先に取引を辞める様に命令した。唯人さんをモノにするために。唯人さんが婚約者と別れれば全て元に戻すと脅し、別れさせたが、それでも、思い通りにならないから更に唯人さんを脅した。だから、唯人さんは婚約者と別れ、会社を辞める決断をした。」
「風香さん・・・なんて事を。」
「私も風香に全てを与えすぎた。私にも責任がある。償いをさせて頂きたい。」
美麗は話始めた。
「あの。じゃあ、もう私は、唯人さんと結婚できるんですか?唯人さんはもう会社辞めなくていいんですか?」
「もちろんです。今日はこれで失礼します。少しでも早く謝罪しないと、取り返しの付かない事になってはと思い、夜分に失礼致しました。また、後日お詫びに伺います。失礼致しました。」
西園寺親子は帰っていった。
唯人はぼっとしている。
「おい!唯人!しっかりしろ!全部終わったんだ!もう大丈夫なんだ!」
叔父は声をかけるが、唯人の思考は停止している。大分疲れた様子で、状況を理解できていてもどうなったのか良く分かっていない。現実を受け入れる余裕が無い様子だった。
「だめだ。美麗さん。ここはお願いしてもいいか?君だけが頼りだ。」
「はい。唯人さんが元気になるまで、ずっと一緒にいます。」
「よろしく頼む。」
唯人の叔父は、唯人を美麗に任せ、帰っていった。
美麗は、唯人のとなりに座った。
肩に頭を置き一緒にいた。
長い時間、そうしていた。
唯人は、ソファーに座ったまま眠っているようだ。
何時だっただろうか。
カーテンの隙間からは朝日が差し込んでいた。
唯人の目がゆっくり開いた。
「美麗?美麗・・・」
唯人の目から涙が溢れ出した。
「おはよ。唯人さん。頑張ったね。全部終わったよ。」
「西園寺・・・現実だったんだな・・・夢・・・じゃないよな?」
美麗は、唯人のほっぺたを優しくつねった。
「うん。夢じゃない。痛いでしょ?」
「はははっ。唯人は疲れた様子で力無く笑う。」
「唯人さん。」
美麗は両腕を大きく広げた。
唯人はゆっくり美麗の胸に飛び込んだ。
「唯人さん。もういなくならないでね。
唯人さんが先に言ったんだよ。」
「そうだったね。また、美麗と一緒にいられるんだね。」
「うん。ずっと一緒だよ。」
もう少し寝る?
「うん。」
「ベッドで寝ないと疲れが取れないよ。」
二人はベッドで横になり、目を閉じた。
美麗は寝て無かった事もあり、すぐに眠りに落ちた。
「おぃ!おい!し・ら・か・わ〜!」
美麗ははっとした。
社員Aが怪訝そうににらんできている。
「何仕事中に寝てんだよ!」
「えっ?何?何これ?夢だったって事?」
「何意味分からない事いってんだよ!」
「奏部長は?」
「はっ?誰それ?部長はいつもの部長だろ?ついに頭バグったか?」
「そんな・・・唯人さん・・・会いたいよ〜。」
美麗は泣き出した。
「おっ、おい!何泣き出してんだよ!俺が泣かしたみたいだろ。泣きやめよ!
白河!おぃ!白河!おいって、白河・・・」
「みれ・・・みれい・・・美麗!」
美麗は目覚めると同時に、上半身を起こした。
「ハァハァハァ。唯人さん?・・・良かった〜。」
美麗は泣きながら唯人に抱きついた。
「どうした?怖い夢でも見たの?」
「うん。怖かった。怖かったよ〜。」
これは夢でも妄想でもない。
白河美麗は、妄想を卒業して、ちゃんと現実の恋をした。そして、大好きな相手と結ばれた。
ゴーン。ゴーン。ゴーン。
ここは、教会。結婚式が開かれている。
祭壇にいるのは、西園寺風香と、某大企業の御曹司。
「ねぇ唯人。風香さんとは色々あったけど、幸せになって欲しいね!」
「そうだね。俺たちはすごく幸せだし、西園寺さんにも幸せになって欲しいな。」
唯人は美麗に答えた。
甘える様に、唯人の肩に頭を置いた美麗のお腹は大きくなっていて、美麗の左手の薬指には、唯人とお揃いの指輪が輝いていた。
「完」