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会社のゲートを通らなければ

私は、名前の通り美しく麗しい。

社員その1が話かけてくる。

「白河さん!今日残業?俺やっとくから帰りなよ!」

「えっ!?本当?あ・り・が・と。」

「全然!今度食事でもどう?美味しいフレンチの店見つけたんだ!」

「う〜ん。代わりにお仕事してくれるし〜考えとくね。」

「マジ?やったー!」

社員その2がやって来た。

「おぃ!抜け駆けすんなよ!その仕事俺がする!」

社員その4と5と6と・・・

「いやっ俺がやる!」

美麗は面倒になってきた。

(早く帰らせてよ。)

「もぅ!じゃ〜公平にじゃんけんで決めて。」

美麗の仕事をしてディナーに行ける権利の争奪戦で、じゃんけん大会が始まる。

「じゃんけん・・・」


「おぃ。おぃ。おぃ!白河!」

美麗は現実世界に引き戻された。

「白河、なにぼっとしてんだよ!」

社員1が怪訝そうに美麗に言う。

「俺っ、今日デートだからこのデータまとめるの頼むわ。」

「えっ?でもこれはあなたの」

社員1は遮る様に言う。

「俺の仕事はお前の仕事、お前の仕事はお前の仕事だろ?!だよなー!」

「分かりました。やっておきます。」

「おっ!さすがは白河!頼むわ〜。じゃ、おっ先〜。」

「はぁまた仕事を押し付けられてしまった。」

私は白河美麗。

実は異能の持ち主。

妄想力が並外れている。

小さいときは、容姿が良かったのか、カワイイと人気者だった。

小学校、中学校では、妄想が口から出てしまい、気持ち悪がられて一人ぼっちだった。

高校からはバレない様に妄想できる様なった。でも一人ぼっちだった。

就職してからはこんな風に仕事を押し付けられる時以外一人ぼっちだ。

「はぁ。今日も残業か。」

美麗はこんな感じで一人だけ毎日残業していた。

「あ〜もう8時かぁ。今日もがんばったね美麗・・・私をほめるのは私だけか。帰ろ。」


朝の日差しが眩しい。

「昨日は頑張ったから、今日の仕事は明日でもいいから、今日はサボっちゃお!どうせ早く帰ろうとしたら仕事押し付けられるし。」

美麗は会社の入口のゲートの前で立ち止まり、一人呟く。

美麗は会社をサボり、公園を歩いていた。

「ベンチに座って本でも読もっと!」

辺りを見回したが、ベンチは全て使われている。2人がけのベンチに1人で座っている男の隣りだけが空いている。少し気が引けたが、美麗は話しかけてみた。

「あっ、あの。お隣り座らせてもらってもいいですか?」

「あっ、うん。どうぞ。」

美麗は男の隣りに座った。

男は20代後半くらいでオシャレでイケメンだったが、元気がなさそうに見えた。

美麗は、気にせず本を開き読み始める。

「あのさぁ。」

男が美麗に話かける。

「はっ、はぃ。」

「ちょっと話聞いてくれない?」

「えっ?はい。」

美麗は本を閉じ、男の方に体を向ける。

「俺、かなで 唯人ゆいと。」

「あっ、私は白河美麗。」

「美麗ちゃんか〜。」

(いきなり名前呼び?女慣れしてそう。あまり深入りしない様にしないと。)

「俺さぁ。服とかデザインする仕事でさぁ、結構有名なんだけど、知らない?」

「す、すいません。私ファッションとかあまり興味が無くて。」

「地味だもんね。でも・・・」

唯人が美麗の顔を覗き込む。

「顔カワイイし、色々がんばったらモテそうだけど?」

「わっ私は大丈夫です。」

唯人は美麗の黒縁眼鏡をすっと奪う。

「あっちょっと!返して!」

「ほらっ!」

「やっやめて下さい!」

美麗は眼鏡を奪い返してすぐにかけた。

「顔とか以前に私は人と話すのが苦手だからだめなんです。」

「ちょっとそこに立ってよ。」

「あの、人の話聞いてますか?」

「いいから、いいから。」

美麗は仕方なく、男の前に立った。

「お〜!イメージが湧いてきた!」

「もっ、もういいですか?」

美麗は変な男に絡まれたと思い、その場を立ち去ろうとする。

唯人は美麗の腕を掴み、

「本、続き読みなよ。」

「えっ?はっ、はい。」

断れない性格の美麗は仕方なく本を読み始める。

唯人はスケッチブックを取り出し、何やら描き始めた。

「服・・・ですか?」

美麗は、横目に唯人のスケッチブックを見て、素敵な洋服のスケッチについ話かけてしまった。

「そう。もうすぐイメージが固まりそうなんだ!」

「素敵な洋服ですね。」

「そう?ありがとう!」

美麗は本に目を戻し、読書をつづけた。

スケッチが終わったのか、唯人はスケッチブックを閉じた。

そして、美麗の肩に顔を埋めてきた。

「ちょっ!ちょっと!何してるんですか!」

「美麗。俺、ここ最近ろくなイメージが沸かなくてさぁ、デザインの仕事辞めようと思ってたんだ。」

「はっ、はい。とりあえず離れて頂けませんか?」

「でね、この公園のこのベンチで座って絶望に包まれてたわけ。」

「はぃ・・・」

「そしたら、美麗が現れた。」

「あの〜。」

「今日暇?」

「まぁ会社サボって読書する予定でしたので予定はないですが。」

「じゃあうちにきてよ。」

「えっ?それって?」

「ははっ!取って食ったりしないから。まぁ仕上がりによっては分からないけど。」

美麗の腕を取り、唯人は歩き始める。

「ちょっと痛いです。ついていくので。」

「悪いっ。つい興奮しちゃって。」

(今日私は、名前しかしらないイケメンに弄ばれて捨てられるんだろうな。)

ガチャ。カチッ。

美麗は唯人の家にはいり、唯人は鍵をしめた。

「あの。」

「美麗、ちょっと時間かかるから、ソファーで本読んでてよ。」

「すごっ。」

唯人の家のリビングは、美麗の家がすっぽり入るくらい広く、大きなガラス窓からは東京の街並みを一望、スカイツリーまで見える。

「まぁ適当にくつろいで。飲み物とか冷蔵庫の勝手にのんで!」

唯人は足早に部屋に入っていった。


カチカチカチ。

静かなリビングに時計の音が響く。

「もう夕方なんですけど。いつまで放置?そういう遊び?本読み終わったし。あ〜お腹空いた。」

美麗は恐る恐る唯人の入っていったドアを叩こうとした。

ガチャ。

「みれっわぁ!びっくりした〜」

「私もびっくりした!あの〜そろそろ帰ろうかと思って。」

「ダメだよ!やっと試作品ができたんだから!」

唯人は美麗を部屋に引っ張り込み、服を脱がしだす。

「ちょっちょっと待って!まだ心の準備が!」

「いいから!」

強引な唯人に美麗は諦めて身を委ねた。

下着姿にされ、胸の高鳴りがピークに達する。

(いいよね?お父さん、お母さん。こんな形でもちょっとの時間でも幸せな気持ち味わっても。)

美麗が覚悟を決めたとき、バサっ。

「えっ?全部脱がないの?」

唯人は美麗に大きな布を被せた。

「あれっ?これ、ワンピース?カワイイ。」

「だろ!自信作だぜ!」

唯人は手慣れた様子で美麗に靴やアクセサリー、化粧、ヘアメイクなどをしていく。

「完成!見てごらん。」

美麗はカガミに映る自分を見て驚く。

「えっ?これ私?」

「いっただろ。美麗はキレイなんだよ!美麗のおかげで今頭の中に次々とイメージが湧いてるんだ!今日は寝られないぞ!ありがとう!」

「きゃっ」

唯人は無邪気に美麗を抱きしめた。

ぐぅ〜。

美麗はお腹がなり、顔を赤らめた。

「ははっ!」

美麗のお腹の音で唯人は、窓から見える景色が夜になっている事に気付いた。

「ごめん!美麗!お腹空いてない?」

「うん。ものすごく空いた。」

「俺いつもこうなんだ。ごめんな。そうだ!近くに美味しいフレンチがあるから一緒に行こう!」

「フレンチ?私食べた事ない。」

「初フレンチだね。」

唯人はキレイになった美麗の手を引き、レストランに向かった。


レストランに到着する。

「美麗、ちょっと待ってて。席空いてるか聞いてくるから。」

「はっはい。」


「奏様、いらっしゃいませ。おやっ、奏様がお連れ様とは」

「うん。この店はお気に入りだから、いつか大切な人ができるまでは誰も連れて来ない事にしてたから。」

「大切な方なのですね。では、いつもの席をご用意致します。」

「大丈夫?予約とか?」

「当店は席のご指定はできませんので。」

レストランの支配人は、いたずらな笑顔で笑う。

「ありがとう、支配人。今日は特別なコース料理を二人分頼むよ。」

「承知致しました。」

「エスコートは自分でするから、料理よろしく!」

唯人は美麗の元へ駆け寄る。

「美麗、行こう!」

唯人は美麗に手を差し出す。

美麗は少し照れながら、唯人に従う。

唯人は美麗をエスコートして、着席する。

「素敵なレストランですね。夜景もキレイ!」

「だろ!料理もものすごく美味しいから期待してて!」

「私・・・変な子だから今日までずっと一人ぼっちだったの。だから、今日は今までで一番幸せな日です・・・ありがとう。」

「ははっ、大げさだろ!これからもっと幸せにしてやるよ。俺の彼女になってくれないか?」

「えっ?私なんかでいいんですか?」

「美麗がいいんだよ。まだ、お互いの事知らないけど、そんなのはこれからでいい。美麗を俺だけの物にしたい。」

「奏くんも私の物になってくれる?他の子にも同じ事いったりしない?」

「当たり前だろ。俺さ、こんな身なりで、職業柄モデルの子と良くはなすから、女なれしてるとか、チャラいって思われるけど、女の子と付き合った事ないんだ。」

「えっ?絶対嘘だ!」

「俺、嘘はつかない!嘘は大嫌いだ!」

「ごめんなさい。」

「いゃっ。ごめん。」

「じゃぁ、私が初めての彼女だね。」

「彼女になってくれるのか?」

「はい。よろしくお願いします。」

「嬉しい!」

「私も。夢みたい。」

二人はしばらく微笑みながら見つめ合っていた。

「奏様、おめでとうございます。

そろそろオードブルをお持ちしても?」

気を使って遠目に見ていた支配人が唯人に話かける。

「気を使わせて申し訳ない。お願いします。」

唯人は照れくさそうに答えた。

美麗と唯人は、これまでどんな風に生きてきたとか、趣味とか、家族の事とか話題は途切れる事はなかった。

「ごちそうさまでした。」

「どうだった?」

「す〜ごく美味しかった!それに、私、こんなに楽しく家族以外の人と話せたの初めて!」

「良かった。じゃあうちに戻ろうか。」

「あっ、服も着替えないとだね。」

美麗と唯人はゆっくり歩いて唯人の家に帰った。

夜風が気持ちのいい月の綺麗な夜だった。

ガチャ。カチッ。

「美麗、もうちょっと飲まない?」

「はい。」

「このワイン、いつか特別な日に飲もうと思ってとっといたんだ。」

「特別なワインなの?」

「うん。俺の生まれた年のワイン。父さんが20歳の誕生日にくれたんだ。」

「そんな大切なの飲んでいいの?」

「今日飲みたい。」

「じゃぁ、頂きます。」

『かんぱ〜い』

美麗と唯人は沢山はなしながら、特別なワインをのんだ。

「なぁ美麗、明日土曜日だけど休み?」

「今日サボっちゃったから、明日は仕事行かないといけないかな。」

「そっか。ここから行けば?」

「うん。」

「やった!」

(お父さんお母さん、今日美麗は大人になるかもしれません!)


二人は順番にお風呂に入り、唯人のベッドに座っていた。

「美麗。大好きだ!」

唯人は美麗を抱き寄せる。

「ふふっ。私も大好き。」

唯人は美麗をゆっくりとベッドに寝かせる。

「優しくしてね。」

「うん。」

「美麗。」

「唯人。唯人。唯人。」


「あの〜。あのー。あのー!」

美麗ははっと我にかえる。

「はっ!はい!すいません!」

会社のビルの警備員が怪訝そうに美麗を見ていた。

「そろそろ閉めたいんですけど、まだお仕事終わらない?」

「いえっ、もう帰ります。すいません。」

美麗は荷物をまとめて足早に会社を出た。

「あぁ〜あ。唯人どっかにいないかな〜」

夜風が気持ちのいい月の綺麗な夜だった。

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