巨人の立ち位置
中野高校グラウンド、午前中
中野高校と黒峰高校の練習試合は終盤に差しかかり、グラウンドには張り詰めた空気が流れていた。朝の太陽がダイヤモンドを温かな金色に染め、新鮮な芝生の香りが風に混じる中、中野の主砲・西村ソウマが打席に向かって歩を進めた。観客席にはスカウトや記者、熱心なファンが詰めかけていた。期待と緊張が頂点に達していた。
マウンド上で、司堂セイヤは目を細め、心の中で呟いた。(来たか…)
観客席から興奮の声が上がった。「これは見逃せないぞ!」
「絶対だ! この対決、ずっと待ちわびてた!」と別の声が重なった。
ブルペン横のケージでは、中村ハヤトがスイングを止め、グラウンドに目を奪われた。(やっぱり西村先輩、一球たりともミスしないような雰囲気だ…)
中野のベンチで、山田カントクは鋭い視線を向け、心に思う。(西村…ここで打てなきゃ、チームの士気が一気に下がるぞ。頼んだぞ。)
西村は打席に着き、バットでホームベースを軽く叩いた。司堂が口を開いた。「おい、西村。ようやく会えたな。楽しみにしてたぜ。」
西村の声は冷たく、短く返した。「話はいい。早く投げろ。」
司堂は眉を上げ、口元に笑みを浮かべた。「おお、短気なタイプだったとはな。」
スタンドで、佐久間ユウイチは眼鏡を調整しながらノートに書き込み、考えを巡らせた。(あのスイング、効いてるな。ゾーンが狂ってる。立て直せるか…面白い。)
西村がバットを軽く振ると、空気が鋭く切り裂かれ、司堂に向かって吹きつけた。「話は終わりか?」
司堂の目が見開き、驚きが一瞬顔をよぎった。(こいつ、本気だ…) だがすぐに笑いを取り戻し、「ハハ! よしよし、始めようぜ」と気を取り直した。
初球は外角への速球だったが、大きく外れてしまった。「ボール!」と審判が宣告。
司堂は息をつき、三宅ソウタに視線を向けた。「悪かったな、ソウタ。ミスった。」
三宅は頷き、落ち着いた声で応じた。「大丈夫だ。任せておけ。」
司堂が再び投げ込んだのは速球だったが、低すぎて地面にバウンドし、三宅が慌てて受け止めたが、危うくこぼしそうになった。
観客席からざわめきが起こった。「どうしたんだ? 敬遠するつもりか?」
「無理もないよ」と別の声。「2アウトでランナーなしの西村にホームランを打たれるリスクは避けたいだろ。」
マスク越しに、三宅が考えを巡らせた。(セイヤ、どうしたんだ? 集中しろ。)
司堂は歯を食いしばり、心の中で呟いた。(分かってる… 変だ、狙ったとこに行かねぇ。)
西村は司堂を冷ややかに見つめ、感情を一切表に出さなかった。
中野のベンチから、田中レンが苛立ちを隠さず叫んだ。「逃げるな、クソガキ! 萎縮したのか?」
司堂の拳がマウンドで握り潰され、心が反応した。(俺が逃げるだと?!)
三宅が落ち着いて遮った。「セイヤ、気にするな。こいつに集中しろ。」
司堂は舌打ちし、決意を固めた。「チッ、後で見返してやる。」
佐久間はスタンドでペンを止め、分析を続けた。(あのスイングが心理的に効いたな。ゾーンが狂ってる。立て直せるか見ものだ。)
司堂は深呼吸し、落ち着きを取り戻した。3球目はゾーンの上部を突く速球—ライジング・ファストボールがまったく落ちなかった。
西村はわずかに構えを調整し、ボールにバットを合わせた。打球は高々とレフト方向へ――!
司堂の顔から血の気が引いた。(しまった!)
「打ったぞ!」と観客が沸き立った。
「レフト!」三宅が急いで指示を出した。
中野のベンチでは喜びが爆発した。石川カズヤが身を乗り出し、「当てたか?」
田中レンが鼻で笑った。「あのバカ、引っかかったな。西村先輩を敬遠すればよかったのに。」
上杉コウキが笑顔で応じた。「さすが西村先輩だ!」
小倉ナツキが頷いた。「西村先輩が味方で良かったよ。」
木村タイヨウが腕を組み、珍しく微笑んだ。「間違いない。彼の存在が士気を高めてくれる。」
藤本イッセイ、秋山ショウタ、鈴木ハルトは静かにボールの軌跡を見守り、言葉を発さなかった。
ブルペン横のケージで、ハヤトが呟いた。「当てたか。やっぱり西村先輩だな。」
だがボールがフェンスに向かう中、外野から足音が響いた。楠木ダイゴ、ルーキーのレフトが全力で駆け出し、ボールの軌道を正確に追った。フェンスを蹴り上がり、空中でキャッチ――ホームラン寸前で掴み取った。
観客席がどよめいた。「すげぇ! フェンス蹴って捕ったぞ!」
「間違いなくホームランだったな!」と別の声が続いた。
黒峰の守備陣は一斉に歓声を上げ、ダイゴのスーパープレーを称えた。司堂が拳を振り上げた。「よっしゃ! よくやった、ダイゴ!」
三宅が横目で笑みを浮かべた。「あいつのおかげだぞ、感謝しろよ。」
西村はバットを下ろし、心の中で考えた。(ライジング・ファストボールの錯覚がタイミングを狂わせたか。厄介な球だ。舐めてた。)
佐久間はノートに書き込み、頭を働かせた。(おおっ、司堂が初回を制したか? 勝敗は分からんが、1年生の楠木ダイゴが鍵を握ったな。)
一方、中野のベンチではさっきの歓声がしぼみ、沈黙が広がった。
スリーアウト、チェンジ。中野のブルペンで加藤リョウタはプレーを見届け、プレッシャーを感じていた。(ここでミスったら終わりだ。黒峰は手強いチームだ。)




