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パワー対スピード

中野高校のグラウンドは、黒峰高校との練習試合が始まる期待感でざわめいていた。夕暮れの空が紫に染まり始め、スタンドはスカウト、ジャーナリスト、熱心なファンで溢れ、ファンのざわめきが芝の香りと張り詰めた空気と混ざり合っていた。中村ハヤトはバッティングサークルに立ち、バットを一定のリズムで振り、打球の音が彼の決意を静かに物語っていた。

(試合が始まるか… 今日は出たかったけど、今はそれに悩む時じゃない。俺の時は絶対に来る。スキルを磨いて、チャンスを逃さず実力を上げていく。鈴木先輩に気づかせてくれてありがとう。)彼の目は細まり、藤本イッセイが先頭打者の打席に立つ姿を見つめた。ファンの興奮が一気に高まった。

藤本は中野の素早い遊撃手で、土にスパイクを打ち込み、完璧な構えを見せた。観客の間で話が盛り上がった。

「これは面白い対決だね。パワー対スピードだ。」と一人のファンが言った。

「わかるけど、スピードは打てなきゃ意味ないよ。藤本はあいつと対決するんだぜ?」と別のファンが応じた。

近くで、ベテランジャーナリストの佐久間ユウイチが会話を耳にした。欄干にもたれ、眼鏡を調整しながら、思索的な光が目に宿った。(その意見は間違ってない。パワーとスピードは大事なツールだけど、実行力と瞬時の判断が上回る。鍵は来る球を見極める力だ。)彼は素早くメモを取り、ペンが動き続けた。

打席で、藤本は深く息を吸い、心がドキドキした。(先頭打者として、最初に向かっていくのは俺だ。プレッシャーは慣れてるけど、この奴は別次元だ。俺の結果がチームの自信を左右するかもしれない… 慎重に行かなきゃ。)指がバットを強く握り、筋肉がピンと張った。

マウンドでは、司堂セイヤが藤本を冷静に観察した。(間違いない、この奴は異常な速さだ。平凡な当たりでもヒットになりかねない… いや、考えすぎだ。いつものように投げればいい。)肩を回し、迷いを振り払った。

司堂と三宅ソウタは素早く視線を交わし、投球を決定した。司堂がスムーズに腕を振り、ファストボールを真ん中へ投げた。観衆が一斉に「オオッ」と声を上げ、驚嘆がスタンドを包んだ。

「エグい! 今の玉何キロだったんだ?」と一人の観客が叫んだ。

「知らないけど、高校生じゃありえない速さだね。」と別の観客が答えた。

佐久間は小さく微笑み、心の中で考えた。(それで感心してるなら、司堂のことはまだ知らないな。すぐに分かるだろう。)

三宅が球をキャッチし、衝撃でグローブが揺れた。「ナイス玉だな。今日の調子いいみたいだぜ。」と球を返しながら言った。

司堂の唇に薄い笑みが浮かんだ。「いつ悪い時あったか、バカ?」

三宅は内心でニヤリとした。(中野、お前ら何に飛び込んだか分かってないな。)

打席で、藤本は自分を落ち着かせ、心臓がドキドキした。(ヤベエ… 速いな、噂通りか。でもタイミングは掴めた気がする… 打てる。悪いな、日本一のピッチャー。 またその玉投げたらブッ飛ばすよ。)構えを微調整し、自信が湧いてきた。

司堂は再び腕を振り、圧倒的な速さのファストボールを放った。藤本の口元に笑みが広がった。(もらったぜ!)しかし、球はさらに急激に加速し、藤本を惑わした。

佐久間は前に身を乗り出し、満足げにニヤリとした。(ほらな、これが司堂だ。)

藤本の目が見開かれた。(何!? 速くなった!?)全力でバットを振り、なんとか球に当たった。球は内野へ浮き球となって漂い、マウンドへ向かった。司堂はスムーズに位置を調整し、捕球した。視線を一塁へ移すと、藤本がすでにベースに近づいているのが見えた。

(もうそこに!? 速いって聞いてたけど… 次は気をつけなきゃ。)司堂は珍しく尊敬の念を覚えながら、球をグローブにしまった。

浮き球でアウトになった藤本はユニフォームの土を払い、苛立ちを抑えつつも誇らしげな表情で歩いた。(お前ら見てたか? あのピッチャーの玉、加速するんだ。あいつはただの噂じゃないぜ。)彼はダグアウトへ戻り、頭を高く保ち、仲間たちに無言で意気込みを示した。

バッティングサークルとダグアウトで、秋山ショウタ、西村ソウマ、鈴木ハルトは藤本の決意に満ちた表情を捉え、黙って頷き合い、司堂の実力を認めた。

「ねえ、今の玉…」と一人のファンが呟いた。

「うん、錯覚じゃないよ。あの玉、加速したみたいだね。」と別のファンが同意した。

佐久間は立ち上がり、落ち着いた口調で言った。「あれはライジング・ファストボールだ。厳密には空中で加速してるわけじゃない。バックスピンが重力を予想以上に打ち消して、リフトを生むんだ。速くなるように見えたり上がるように見えるけど、実は落ちる幅が少ないだけなんだよ。」

中野のダグアウトでの反省

中野のダグアウトでは、チームが集まり、緊張感が漂った。

「ライジング・ファストボール!?」加藤リョウタが身を乗り出して叫んだ。

「ああ… あのスピン見てなかったのか?」鈴木ハルトが鋭い口調で返した。

「待てよ、ほんとに上がるの? どういうこと?」上杉コウキが首をかしげて尋ねた。

山田カントクが落ち着いた声で割って入った。「上がってるわけじゃない。異常なバックスピンで、重力が普段通り引っ張れないんだ。」

「じゃあ、球が空で違って見えるだけ?」小倉ナツキがバットを握りながら尋ねた。

「その通りだ。」山田が頷いた。「ストライクゾーンの上部に向かって長く進むから、目が騙される。それが危険なんだよ。」

(この球、ゆっくり見なきゃ。信じられねえな。)加藤リョウタは指を震わせながら考えた。


秋山の打席

秋山ショウタは打席に立ち、ヘルメットを調整しながら挑戦に備えた。(よし、司堂セイヤ。ライジング・ファストボールのトリックは分かった。どんな玉か見せてみろ。)彼の目はマウンドに固定され、静かな決意が彼を包んだ。

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