迫り来る対決
中野対黒峰の練習試合
中野高校と黒峰高校の練習試合を前に、場には予想外のざわめきが広がっていた。普段は静かな練習グラウンドが、思いがけず多くの観客で埋まり始めていた。スカウトや記者が群衆に混じり、ざわめきが緊張感を高めていた。この試合がただの練習戦ではないとの噂が流れていた—それは日本一の高校生投手、司堂セイヤの輝きを目にする舞台だった。
黒峰側のダグアウト付近では、緊迫したやり取りが繰り広げられていた。
司堂セイヤは腕を組み、ダグアウトの壁にもたれかかり、楠木ダイゴを鋭い目で睨んだ。「おい、ダイゴ。どこに行ってたんだ?」声には苛立ちが滲んでいた。
楠木はポケットに手を突っ込み、のんびり歩み寄り、口元に狡猾な笑みを浮かべた。「中野の連中にあいさつに行ってきただけさ。一応礼儀正しくと思ってな。」肩をすくめた。
キャッチャーの三宅ソウタはこめかみを揉み、顔をしかめた。「何かバカなことしてないだろうな?」声には諦めが混じっていた。
楠木はくすくす笑い、首の後ろを掻いた。「いや、センパイ… まあ、厳密にはね。ちょっと雰囲気がピリッとしちゃったよ。」視線を逸らした。
三宅は顔を覆い、深いため息をついた。(こいつ、また何かやらかしたな。嫌な予感しかしない。)
司堂は眉を上げ、近づいた。「ピリッとした? あいさつに行くだけだろ?」
楠木は姿勢を正し、目に闘志を宿した。「最初はそうだったけど、鈴木ってピッチャーを使わないって聞いてさ。舐めんなって伝えておかなくちゃと思って。」得意げに笑みが広がった。
司堂はニヤリと笑い、頷いた。「いいよ。引っ張り出せば済む話だ。今日これだけ観客が来てるなら、みっともない真似はしたくないだろう。」
楠木も頷き、自信を深めた。「まさにそれ言ったんだ、センパイ。こっちの本物のピッチャーが誰か、すぐ分かるよ。」
司堂は珍しく笑い、楠木の肩を叩いた。「時々いいこと言うな。認めてやるよ。」
近くで、先頭打者のセンター佐原レンがキャップを直し、二塁手の伊東ユウジに小声で言った。「ダイゴ、またやってるな。運を悪くしてないといいけど。」
伊東はグローブを磨きながら穏やかに頷いた。「無茶するけど、司堂がいる。俺たちは役割に集中しよう。」
ほとんどの選手は知らされていなかったが、ごく少数の者だけが事前に伝えられていた—この練習試合は一般公開され、司堂セイヤの速球を間近で見ようとスカウトが集まっていた。スタンドが膨れ上がり、観衆のざわめきが潮のように高まる中、プレッシャーが増していった。
木村タイヨウは観客の波を見て、頭をかいた。「おいおい、こんなの聞いてねえよ。どうしてこんなに人がいるんだ?」
隣に立つ上杉コウキはキャップを調整し、目を丸くした。「俺も驚いてるよ。これだけの大観衆は人生初だ。」声が少し震えた。
石川カズヤは腕を組み、観衆を見渡して考え込むように頷いた。「司堂が最速投手だから、これだけ人が来るのは当然だ。でも、これほどとは思わなかった。」
田中レンは拳を鳴らし、黒峰側を睨んだ。「あのバカダイゴ、冗談じゃなかったな。集中しろよ、国中に恥かかすぞ。」
小倉ナツキは凍りつき、バットが少し手から滑った。「何?! 全国放送?」(プレッシャーが半端ないな。)ゴクリと唾を飲んだ。
秋山ショウタはフェンスにもたれ、苦笑いを浮かべた。「こう考えろ—この試合はニュースになるぞ。見てみろ、スカウトや記者がいる。」スタンドを指した。
藤本イッセイはグローブを叩き、ニヤリと笑った。「ハハ! プロを目指すならこれ以上のチャンスはないぜ。」
山田カントクは背中を組んだまま、きっぱりと言った。「その通りだ。司堂を心配するより、自分を心配しろ。」
西村ソウマが前に出て、落ち着いた声で言った。「これは普通の練習試合じゃない。どのチームも見てる。日本の高校野球の基準を作るチャンスだ。失敗するな。」各選手の目を見た。
観衆から、スカウトがノートに書き込みながら呟いた。「司堂の速球は世代を定義するかも。中野が耐えられるか見てみよう。」
近くの記者がカメラを調整し、仲間に囁いた。「鈴木が休むなら、混乱するかも。どっちにしろ大ニュースだ。」
一方、中村ハヤトは少し離れて立ち、ざわめきが遠くに聞こえる中、地面を見つめた。(試合に出たい。どうすればいい? 全部やったのに。)拳を握り、選ばれなかった痛みが胸を締め付けた。
鈴木ハルトは水筒を手にダグアウトの壁にもたれ、ハヤトの落ち込んだ様子に気づいた。歩み寄り、鋭い口調で言った。「いつまで落ち込んでるんだ? それが限界か?」
ハヤトの目が見開き、鈴木を見上げた。
鈴木はニヤリと笑い、続けた。「今さら諦めるつもりか? ガッカリだな。」
ハヤトは肩を落とし、低い声で言った。「今年はもう終わりだ。山田カントクは決めたんだと思う。」
鈴木は鼻で笑い、腕を組んだ。「お前、どれだけ鈍いんだ? カントクが二軍の砂場からお前を呼んだのが無意味だと思うのか?」
ハヤトの目が再び見開き、気づきが閃いた。(その通りだ。山田カントクが何かを見たのかも。だけど何だ?)
鈴木は背を向け、水筒をダグアウトに投げ入れた。「砂場で野球したいなら、好きにしろ。」
ハヤトの頭がフル回転した。(ここまで頑張った。戻るわけない… 待てよ、頑張る?)「鈴木センパイ、ありがとう。もう大丈夫だと思う。」(それだ。俺の強さは粘り強さだ。山田カントクに認められるまで頑張り続ける。1軍に上がった時と同じだ。それにシステムもある。焦らず待てばいい。)
仲村からの鋭い声が緊張を切り裂いた。「並べ!」
両チームは試合前のあいさつと儀式のためにグラウンドへ歩を進めた。観衆のざわめきがさらに大きくなった。
黒峰側では、三宅ソウタが中野の選手を眺め、顎を固めた。(くそっ、ダイゴ、何をやったんだ。敵意むき出しだな。)
楠木ダイゴはニヤリと笑い、挑戦的な目が光った。(舐めてた報いを受けるぜ、バカども。)
司堂セイヤは首を鳴らし、中野のラインナップに視線を固定した。(かかってこい、中野。鈴木を出せよ。それと西村… てめえとやりたかった。評判通りの実力か見てやる。)
1塁手の早乙女タクミはキャップを直し、穏やかに頷いた。「落ち着け、みんな。司堂がやってくれる。」
ライトの野間ケンシンも静かに加えた。「プラン通りだ。慌てるな。」
中野側では、決意と闘志がチームを包んだ。頭の中は一つ—黒峰を倒す。それだけだった。揃って一礼した。「よろしくお願いします!」
両チームはそれぞれのベンチに戻った。ハヤトは無駄にせず、バットをつかんでスイングを始めた。打球音が響き渡った。
観衆から、一人が眉をひそめた。「あいつ、何やってんだ? 先発メンバーにも入ってねえだろ。」
別の者が呟いた。「ベンチ要員だろ。スイングも無駄だな。」
司堂セイヤはまだ黒峰のベンチに座り、ベンチからハヤトをちらりと見て眉を寄せた。「ん? あいつは誰だ?」
隣でストレッチをしていた楠木ダイゴは肩をすくめた。「おそらく控えだ。たいしたもんじゃないと思う。」
司堂は首を傾げ、目に一瞬の好奇心が浮かんだ。(変だな。すぐ目についた。考えすぎかな?)
初回が近づいた。司堂はベンチから立ち上がり、マウンドへ向かった。ウォームアップで速球を投げると、ボールが三宅のミットに激しく当たり、雷鳴のような音が響いた。観衆から「うわっ!」という声が上がり、感嘆のざわめきが広がった。
「すごい。速球が別次元だ。ミットに当たるあの音、飽きないね」と一人が身を乗り出した。
「だろ。俺はそのために来たんだ」と別の者が同意した。
「始まるな」と三番目がペンを構えながら言った。
「先頭打者、中野高校、藤本イッセイ!」アナウンサーが高らかに宣言した。
試合が始まった。




