勝利への第一歩
中野高校グラウンド、早朝
「中村!」声がグラウンドの向こうから響いた。人影が近づくにつれ、中村ハヤトは目を細め、心の中で考えた。(井上さんがこんな早朝に俺に何の用だ?)
井上カントクが立ち止まり、マウンドにいるハヤトをじろりと見た。「おい、中村、何かあったのか? 何でマウンドにいるんだ?」
ハヤトは気まずそうに笑い、首の後ろを掻いた。「あ、いえ、ただ肩を温めてるだけです。」
井上は眉を上げ、不機嫌そうに言った。「肩を温めるにしても分からんが、まあいい。山田カントクから急ぎの依頼が来たんだ。」
ハヤトは目を瞬かせ、驚いて言った。「俺? なんで俺なんですか、カントク?」
「質問ばかりするな、ついてこい」と井上は踵を返した。
近くでその会話を聞いた斎藤タロウは固まり、心の中で考えた。(山田カントク? まさか…)
「タロウ、すまん、少し離れるよ。また今度やろう」とハヤトが肩越しに叫んだ。
タロウは鼻を鳴らし、腕を組んだ。「面倒くさいよ。自分でやれ。」
ハヤトが井上とグラウンドを去る間、他の2軍選手たちは好奇心を隠せず、互いに視線を交わした。小林ユウトが清水ケンタを小突き、小声で呟いた。「あいつ、どうしたんだろ。」三井シュンがそっと加わり、囁いた。「何かあったのかな。」
井上と歩きながら、井上が周囲を見回し呟いた。「加藤涼太を見つけないとな。見かけなかったか?」
ハヤトは首を振った。「いえ、カントク。ブルペンにいるかもしれません。」
「じゃあ、まず彼を拾おう」と井上が決めた。
「これって何の話なんですか?」ハヤトは我慢できずに尋ねた。
井上は横目でチラリと見て言った。「質問が多いな。着いたら分かる。」
「はい、了解しました」とハヤトは歩調を合わせて答えた。
中野高校ブルペン、早朝
ブルペンで、加藤涼太はボールを強く握り、心ここにあらずだった。(もっと武器が必要だ。このカッターだけじゃ頼りない。)さらに握りを強めながら、鈴木ハルトの完璧なピッチが頭に浮かんだ。(今頃、鈴木先輩は何をしてるんだろう? 助言を求めるべきか…でもどうやって?)
馴染み深い声が彼の思いを断ち切った。「おい、加藤!」
涼太は驚いて顔を上げた。(何だろう?)「はい、こちらにいます、カントク!」
「こっちへ来い」と井上が手招きした。
「え、すみませんでした?」涼太は首を傾げて呟いた。(カントク、時々謎だな。)
「いいからついてこい」と井上が促した。
「はい、了解しました」と涼太は従い、ハヤトに気付いて首をかしげた。(ハヤトも? 何だこれ?)
「よ、涼太、おはよう」とハヤトは頷いて挨拶した。
「うっす! 何の話だよ?」涼太は並んで歩きながら答えた。
「俺も分からないよ」とハヤトは認めた。「でも、山田カントクが話したいみたいだ。」
涼太の目が少し見開いた。(山田カントク? 何で? まさか…)「な、ハヤト、これって1軍に行くってことか?」
ハヤトは首を振って苦笑した。(1軍? あんな情けないコールドゲームの後じゃねえよ。)「ありえないよ、考えすぎだ。コールドゲームで負けたの忘れた?」
涼太は気まずく笑い、頭をかいた。「そうだね…」
井上が口を挟み、鋭い声で言った。「全部間違ってはいないぞ。」
「えっ?! 何ですか、カントク?」ハヤトと涼太は同時に叫んだ。
「これで俺が君たちの情けない顔を見なくて済むってことだ」と井上は薄い笑みを浮かべた。「山田カントクが直接君たちを求めた…でも、早まるな。1軍入りしてもレギュラーは保証されない。練習は一緒にするが、ポジションは自分で掴め。」
ハヤトと涼太は一瞬目を合わせ、興奮が湧き上がったが、条件は気に留めなかった。
「聞いてたか?」井上が厳しい口調で続けた。「本当の試練はここからだ。祝うのはまだ早いぞ。」
涼太とハヤトは姿勢を正し、決意が燃えた。「はい、了解しました、カントク。」
「あの連中と練習するだけで絶対強くなる」とハヤトは拳を握った。
「うん、間違いない」と涼太が同意し、心の中で考えた。(鈴木先輩と一緒に練習できるなんて楽しみだ。)
目的地に着き、井上が立ち止まった。「着いたぞ。きちんと挨拶して良い印象を残せ。山田カントクが何を考えてるか分からんが、もうお前たち次第だ。頑張れ。」
ハヤトと涼太は深くお辞儀した。「お世話になりました。これからも頑張ります。本当にありがとうございました!」
井上が去る間、頭を下げたまま彼の足音が遠ざかるのを聞いた。
中野高校1軍グラウンド、早朝
井上は去りながら山田カントクに電話をかけ、着信音が鳴った。
「はい?」山田が応じた。
「君が頼んだ選手が外で待ってる。後は任せるよ」と井上が言った。
「分かった。ありがとう、山田カントク」と山田が答え、声に決意が滲んだ。(よし、始めようか…)
1軍グラウンドの外で、ハヤトは落ち着かない様子だった。「ここで待つべきか、中に入るべきか?」
涼太はニヤリと笑い、軽く突いた。「何で俺に聞くんだ、バカ野郎。」
「とりあえず少し待とう」とハヤトが決めた。「田中先輩に会いたくないし。」
「ああ、そういえばその野郎いたな」と涼太が頷いた。
近くに影が現れ、田中レンが腕を組んで近づいてきた。「俺の名前が出たか?」
涼太とハヤトは同時にため息をついた。(まさに鬼が出る山伏…)
「何で2人のゴミ虫がうちのグラウンド近くにうろついてるんだ? コールドゲーム後で特例乞いか?」と田中が嘲った。
ハヤトは涼太を小突いた。「この際、相手にしないでいようぜ。」
「それしかなさそうだな」と涼太が呟いた。
遠くから厳しい声が響いた。「何でそこに立ってるんだ? 2人とも来る気あるのか?!」
ハヤトと涼太は姿勢を正し、頷き合った。田中を抜ける時、舌を出して目尻を引っ張る子供っぽい挑発をした。
「チッ!」田中が舌打ちして背を向けた。
1軍施設の中に入り、ハヤトと涼太は設備に目を奪われた。「おい、これ見てみ。レベルが全然違うじゃん」とハヤトは光沢のあるバットを撫でた。
「ピッチングマシンまである…まるでバッティングセンターだな」と涼太が感嘆した。
「よ、涼太、これ好きだろ」とハヤトが指差した。「投げたボールを返すマシンがあるんだ。ボウリングみたいだけど野球用だよ。ストライクゾーンまである。」
涼太の目が輝いた。「マジか。1人で練習しても効率が10倍になるな。」
ハヤトは頷き、計画が頭に浮かんだ。(1人で練習? そういえばシステムあった。バッティングセンターでお金使わなくてもピッチ認識が磨ける…ピッチングもここで鍛えられる。この特権をフル活用するぞ。)
新たなデイリークエストが発動した:ボール球を50回見逃す
報酬:スキルポイント1
(来たー!! 最高だ!)
山田カントクの声が興奮を遮った。「おい、2人とも見物だけか? 早く動け!」
ハヤトと涼太は姿勢を正し、決意を新たにしながらこの新たな旅の第一歩を踏み出した。




