転換点
中野高校グラウンド、2回裏
春の太陽が中野高校のグラウンドを照らし、ダイヤモンドに長い影を伸ばした。トライアウト試合が2回裏に突入だ。スコアボードは3-0で一軍がリードし、その数字が二軍を試すように光る。でも、1回表の加藤リョウタの意外なカットが、二軍に小さな希望を灯した。マウンドでは、リョウタの細身の体が微かに震えていたが、目に新たな闘志が宿っていた。一軍のベンチは自信に満ち、白と青のユニが陽光に輝いていた。
センターに立つ中村ハヤトは、グローブを強く握った。(リョウタ、頼むぜ。あのカットが勝負だ。そのまま持ってけ!)心臓がドキドキし、試合の緊張とまたバットを振りたい衝動が押し寄せていた。さっきの100回振ってコンタクトが上がった実感があり、その鋭さが体に染みていた。
次の打者、ショートの藤本イッセイが堂々と打席に立った。細身の体がしなやかに構え、電光石火のスピードを解き放つ準備ができていた。リョウタは額の汗を拭い、頭がぐるぐるした。(藤本、化け物だ。あのカット見越してるだろ。変えなきゃ…でも、これしかない!)キャッチャーに頷き、腕を振ってカットを投げた。ボールが遅れて曲がり、イッセイもその動きに戸惑った。
ボールがイッセイのスイングを詰まらせ、バットが弱々しくトンと当たった。観客が息を呑み、誰かが叫んだ、「すげえ!ギリギリだな!」。でもイッセイの足は影のように速く、一塁に突っ込んでスライディング。送球が届く瞬間、セーフに滑り込んだ。アンパイアが腕を上げた。「セーフ!」
イッセイはユニを払い、リョウタにニッと笑った。「いい球だな。1回表ならアウトだったぜ。」声には尊敬と軽い挑発が混じっていた。
リョウタの肩が下がったが、目が鋭く細まった。(いい球?もしかして俺、やれるんじゃ…)一軍のベンチがざわつき、サイドラインの鈴木ハルトが鋭い目でマウンドを見つめていた。
次はキャッチャー秋山翔太
次に打席に立ったのはキャッチャーの秋山翔太。落ち着いた雰囲気で頭脳派の空気を漂わせ、鋭い目でリョウタを観察した。リョウタは深呼吸し、ミットに集中した。(秋山、頭いいな。気をつけねえと。)またカットを投げた。ボールが遅れて曲がる。
秋山はバットを振らず、じっくりボールの動きを追った。アンパイアが「ストライク!」と叫んだ。リョウタはもう一球投げたが、秋山はまた見逃し、細かく分析していた。「ストライク2!」カウントが0-2になり、プレッシャーが重くのしかかった。
秋山はヘルメットを調整し、口元を緩めて言った。「いいタマだな。こっちで受けたいくらいだ。」だが声が低くなり、鋭く切り込んだ。「おいガキ、いい球だな。でもそれだけじゃ甘えよ。」
その言葉がリョウタにガツンと響いた。グリップが強くなり、顔が熱くなった。(甘え?当たってる…読まれてる。もっとねえと!)自信が揺らぎ、マウンドが足元でぐらついた気がした。
逆襲
秋山はさらに薄く笑い、構え直した。リョウタを別の球に誘い込んでいた。リョウタは証明したくて、歯を食いしばり、力いっぱい速球を投げ込んだ。
秋山はスイングしようとしてニヤついた(きた…)。でもボールが勝手に動き出した。自然なスピンがカットをまねて、少し曲がった。バットがバキッと当たって、フライボールがセンターへ飛んだ。ハヤトは冷静にボールを追い、鋭い動きで滑らかに動いた。グローブを上げ、ポンとキャッチ。「アウト!」アンパイアが叫んだ。3アウト—2回裏終了。
秋山は立ち尽くし、呟いた。(さっきのカットか?いや、絶対速球だ…あのガキ、武器持ってんな、でも自分で気づいてねえ。)一軍のベンチが静まり、予想外の展開に驚きが広がった。
リョウタは息を吐き、足が震えながらもニヤリと笑った。(やった…でもあの速球?何だよこれ?)二軍のベンチが歓声に沸き、タローが叫んだ、「ナイス、リョウタ!その火、続けろよ!」
中野高校バッティングケージ、試合後
チームが入れ替わるなり、ハヤトは一秒も待たずバッティングケージにダッシュ。スパイクがコンクリートをカツカツ鳴らした。試合の緊張がまだ漂う中、集中がバリバリだった。使い古したバットを握り、汗が額を伝い、闘志がみなぎった。(まだ足りねえ。もっと振って近づかなきゃ。感じるぜ、この手応え!)バットを振るたび、鋭い打球音がケージに響き、筋肉が叫んでも精神は燃え上がった。
システムのスクリーンがチラッと光り、進行状況が表示された:振る 0/100。ハヤトは呟いた、「次打席までに振りを積まねえと。鈴木が待ってる、弱ぇとこ見せねえ!」。頭に三振の記憶がフラッシュし、闘志が湧き上がった。(次はあのカット当てる。もうファウルじゃねえ!)
タローがケージに寄りかかり、腕を組んだ。「チッ、またやってんじゃん、あのバカ。休まねえのかよ?」
リクが隣に並び、かすかな笑みを浮かべた。「それがハヤトだよ。壊れるか、突破するかまで振るぜ。」
近くのチームメイトがグローブを握り潰し、呟いた。「ハヤト、マジで戦ってる…みんな頑張れば、逆転できるかも…」
太陽が沈み、グラウンドがオレンジに染まった。ケージ越しのハヤトのシルエットは、鈴木や限界と戦う一人だった。グラウンドは静まり、試合はまだ続き、夜が新たな戦いを待っていた。




