12 【第一部完】天才料理人、自分の店を持つ
「いかがでしょう、居ぬきでこの物件というのは結構お得だと思います」
不動産屋が笑顔を進めてくる
町中のどこにでもある古い大衆食堂
カウンターと数個のテーブルがあるだけのこじんまりした店
それが今回勧められた物件だった
「うんいいね」
繁華街と住宅街の間にあって交通の便が良い
そして繁華街や幹線道路からも離れていて騒がしくないのがいい
店もちょっと古いけど耐震基準は最近の規格をクリアしている
それにちょっと、いや、かなり安い
元の店主は高齢のために店を畳んだそうだ
ということは身体が動いていればまだまだ店は続けられたということだ
今まで貯めた貯金でなんとか買える
それに余ったお金で半年は客が来なくても大丈夫
いつ買うの?
いまでしょう!
そう言う事だ
・・・失敗したら雇われ料理人と休みなく働かされる専属料理人コースまっしぐら、だな(苦笑)
<半年後>
「子供はタダ、大人は1000円だよ」
入って来た子供達に声を掛けた
「こどもふたりです」
小学校の低学年らしき姉弟のうちの姉の方がはっきりと言った
女の子は精神年齢が高いって本当だな
世の中の噂を実感した
大人顔負けの受け答えするからな
「好きな所に座ってくれ」
そう言うと二人はカウンターの椅子に並んで座った
「今日はお肉を薄く切ったやつに甘いタレをかけたやつだよ」
そう言ってカウンター越しにおかずとご飯と味噌汁を渡す
「「いただきます」」
姉弟二人は美味しそうに食べ始めた
一口食べるなり
「「美味しい(です)」」
と笑顔で賞賛された
いや~、照れますな~(照)
いやね下町の古い食堂を買い取ったんだよ
これでオレも一国一城の主だ
そう思った時もありました
開店するために色々と動こうとした時、スマホに連絡がガンガン来た
曰く
「料理を作ってくれ、いや食べさせてくれ」
今までは金持ちの専属料理人なんてものをしていた
当然のとこながら雇い主以外に料理を作ることはなかった
・・・雇い主に許可をとってテレビには出たことがあるけどな
話を戻す
雇い主と懇意にしていれば家に呼ばれオレの料理を食べることができた
だが懇意にしていない、もっとはっきりと言えば蛇蝎のごとく嫌っている人間からすると食べることは不可能だった
でも今回自分の店を持った?
だったら食べさせて
そういう連絡がガンガン来た
当然のことながら人に命令することに慣れている人間というのは優待されることに慣れている
いやそれが普通だと思っている
だから当然のごとく注文が煩いんだよ
A5ランクの牛肉
ブランド牛
フォアグラ
トリュフ
キャビア
札束が飛び交う注文の多い事、多い事
それだけでなく料理についても注文がある
フランス料理、中華料理、トルコ料理
といった三大料理ならまだ良い方
未だかつて食べたことがない料理
神の料理
古い本に載っている料理を再現して欲しい
・・・とんだ便利屋扱いだった
まあ自分の店を持ったからにはお客様のニーズに答えるのは当然である
そこで頑張ることにした
とはいえ未だかつて食べたことがない美味い料理なんてのは試作を繰り返さないと無理というものだ
いや試作してできるものなのかと言いたい
そこはほらお金持ち様だからね
いくらでも時間と金を使ってもいいよ
逆に新しい料理ができたなら依頼主は料理の歴史に名を残しちゃう?
ぜひお願いするよ
平気で無茶を言ってくる訳だ
当然のことながら連日試作することになる
店を開けずに料理をするおかしな店主
それが最初のオレの評価だったね
試作するたびに増える料理
もちろん頑張って食べたよ?
でもさすがに一人では食べきれない
当時は本当に困っていた
どうするべ~
そう思いながら店のテーブル席に座ってコーヒーを飲んでいたら客が入って来た
そして言った
「今やってますか」
そこでオレは閃いた
こいつらに食べさせればいい
まあグラムあたり1万円もする肉を使った料理を出す訳にはいかない
近所の店からクレームがつくのは目に見えているからな
だったらこども食堂にすればいいんじゃないか?
どうせ試作品の材料費は依頼主持ちだ
タダで食べさせても損はしない
という訳でこども食堂が始まった
・・・あれ?
お店を持ったところでひとまず第一部完です
お読みいただきありがとうございました




