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10 天才料理人、古巣のレストランのオーナーに泣きつかれる

「お願いだから戻ってきてくれ、いやください」


元の職場のオーナーが頭を下げて頼んできた




あの店、どうやら三ツ星取れなかったってよ


数年前に文学賞を受賞した作品のタイトルが頭に浮かんだ


ちょっとアレンジされているけどな





話には聞いていた


元いたフレンチレストランが某格付けで星一つに陥落したらしい、と


星一つでも十分に大したものだと思う


だから心配する必要はないんじゃないかな?


とまあこれはオレの意見




でもオーナーは違うらしい


三ツ星レストランであることが誇りだった


毎年受賞していたのに今年はまさかの格落ち


それも2ランクダウン


危機感を持ったらしい




そこで三ツ星時のシェフだったオレにカムバックを依頼してきたという訳だ




いや今いるスタッフだって十分星を取れるほどの実力がある


オレなんかよりもよっぽど才能だってありまくりだろうと思う


実際にハッとするほどの才能を見せつけられたことだったたびたびあった


オレがあのままいたらひょっとして星が一つも取れなかったんじゃないかな?



正直に言ったんだがオーナーは許してくれなかった


どうしてもオレを復帰させたいらしい



・・・ひょっとしてこれって、はい、というまで返さないパターンじゃね(汗)








<元三ツ星レストランオーナー目線>



「いやいやいや、オレなんかがいても同じですって」


目の前にいる天才料理人は両手を振って謙遜していた



相変わらず自己評価が低いので思わず笑ってしまいそうだった




いや笑わないよ?


交渉の最中に笑ってはいけない


そんなのはビジネスマンとして当然のことだ


もっとも昨今ではそんな常識は通じないらしいけどな





・・・本当に通じないから驚きなんだよ(涙目)


美味しい食事


清潔な店内


従業員の態度


それさえよければ星は取れていた




ところが近年、世の中の常識が変わりつつあるようだ




パワハラ?


モラハラ?


カスハラ?


マルハラ?




歳をとったせいかまったく理解できない


若い息子に言われるがまま動いている


なぜこんな行動をとらなければならないのかについては全く理解できないのがかなしい



定番の最近の若い者は、といった愚痴を言いたくなる


・・・昔の大人や先輩もこんな気持ちだったのだろう




とはいえ星を失ったことについてはワシが動くしかない


こればっかりは世の中の動きに迎合していても取ることはできないからな




まずは料理の質を上げるのが重要だろう


そう思って元料理長に復帰を掛け合ったのだが返事は芳しくなかった





「私なんて」


昔よく聞いた定番の返事が帰って来た





いや大学出てから飲食業界に入って数年でシェフになり、さらにあっという間に三ツ星を獲得した人間が言って良い言葉ではない


もっと傲慢で、図々しくて、偉そうにしていても許されるだろう




良く言えば謙虚


悪く言えば自己評価が最底辺


そう言う事




そんな人間相手に復帰を交渉するのだ


どうやら長い夜になる気配がする

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