第73話「三周目〜斗哉の気持ちと心乃香の想い〜」
心乃香がスッと顔を上げた。
「あんたは知らないだろうけど、あんたが死んだ時、大変なことになったのよ。あんたの『死』を受けて、悲しむみんなが痛々しくて……見ていられなかった」
心乃香は冷静に斗哉を見遣った。
「私は……行かなかったけど、あんたの葬式に参列した人間、凄い数だったみたい。もし、このままこの神隠しが終わらなかったら、あんたに縁がある人間全部消えて、大変なことになる。凄い数の人間が消える」
「……だからって……お前が肩代わりしたって……」
ふっと心乃香は微笑んだ。
「大丈夫よ。私なら。友達なんていないし、自分にとって、大切なんて思ってる人間いないから。両親は消えるかもしれないけど、姉とは仲良くもないし、あの人なら、私や両親が消えても、支えてくれる人が沢山いるから……きっと大丈夫」
斗哉は心乃香にそう言い切られて、何も言い返せなかった。どうして彼女にこんなことを言わせてるのかと、泣きそうになる。
「確かに、斗哉の『代償』より、心乃香の方が被害は少なさそうだ」
黒猫が二人を見遣って呟いた。
「陰キャだってことが、最後に役に立ったわね……それにいいの、別に消えても。私が消えたって、別に世界は何も変わらないから」
そう皮肉めいて、心乃香は微笑んだ。
どうしたら、どうすればいいか、頭が働かない……このままだと、彼女は本当に肩代わりしてしまう――
でもこのまま何もしなければ、確実に人が沢山消えて行く――
沢山の人の存在と少数の人の存在を今、天秤に掛けなければならない。消えて行く人々に、なんの罪もない。
(でも、――でも!)
「嫌だ! やだよ。絶対嫌だ! また、如月が消えることになったら――」
斗哉は心乃香の両手を掴んだ。
「……オレ、如月のことが好きなんだ! ……だから、代償を肩代わりするなんて、言わないで……くれ……また、如月が居なくなったりしたら……絶対嫌だ……」
この手を離さない。離したくない。心乃香は目を見開いて、その斗哉の告白を黙って聞いていたが、しばらくしてハアッと溜め息を吐き、涙声で吐き出した。
「……よくこんな時まで、人を馬鹿にできるわね。本当、あんたのそう言うところ……大嫌い!」
「違う! 今度は嘘じゃない!」
心乃香は斗哉から目を逸らした。
「黒猫の怨霊化が私が言った『言霊』が原因の一端なら、上書きしたら、呪いの力も弱まるかもしれないって、白に言われたの。だからって訳じゃないけど……」
心乃香は、今度は黒猫を見遣ってこう続けた。
「『絶対許さない』……アレよね?」
「うん」と黒猫は頷いた。
「一度発した言葉は取り消せないよ、心乃香」
「取り消さない。本当に思ってたことだから。その言葉は嘘じゃなかった。でも……」
その時ふわっと生暖かい風が、斗哉と心乃香の間を通り抜けた。心乃香は再び斗哉を見た。真っ直ぐに。
「あの夏祭りの日、あんたにドッキリ仕返したことは、今でも後悔してないし、なかったことにするつもりもない、だけど……」
そこまで言って、心乃香は言葉を詰まらせた。
「あんたたちに仕返しして、本当にせいせいしたと思ったのに……同時に、凄く、悲しくなった」
心乃香の瞳から、涙が一筋溢れた。
「……もう二度と、あんな馬鹿なこと、誰かを「裏切る」ようなことしないって約束するなら、あんたたちを……あんたを『許す』よ」
心乃香がそう言葉を発した途端、黒猫の体からパリンと何かが弾けた。
それと同時に、心乃香の姿がふわっと消えた。
つづく
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