第100話「本当の告白」
斗哉は自分の額に当たっている、心乃香の体温を確かめながら、切なそうに呟いた。
「……ごめん。本当にもっと早く、オレが確かめればよかった。……でも、オレを今更、そんな風に見れないのかと思ってたし、確かめたら、完全に如月との関係が終わる気がして……怖かった」
心乃香はその告白に、息が止まる思いだった。自分とまったく同じことを、斗哉が考えてるなんて思わなかったからだ。
まるで違う世界の住人かと思っていたのに、同じ気持ちを抱えることがあるなんて……
心乃香は今、本当に斗哉と『同じ人間』であるのだと、当たり前のことに気が付いた。
「……八神でも、そんなこと考えるんだ?」
「でもって、何だよ? ……オレだって……」
そう言葉を詰まらせると、斗哉はそのまま心乃香の唇に自分の唇を重ねた。名残惜しそうに離しては、再び心乃香の唇に吸い付く。
再び離し、彼女の驚いたような顔を見つめると、ぎゅっと彼女の体を抱きしめた。
「もう、本当に絶対離さないから。覚悟しろよ。オレをこんなに待たせた分、きっちり埋め合わせしてもらうから」
斗哉は少しはにかむと、そのまま心乃香に口づけた。
何度も吸い付かれ、心乃香は堪らず身を捩った。
「まっ、待って! ……やっ!」
その時、二人の耳の奥からチリンと鈴の音がなった。
「はい! そこまで!」
その聞き覚えのある声に、二人はギョッとした。気が付けば、そこは見知ったあの古びたお堂の前だった。側にある古びた鳥居の上から、ニャーと猫の鳴き声がする。
あの黒猫が、鳥居の上に鎮座していた。
「おい、斗哉、調子に乗るなよ!」
「お前……成仏したんじゃないのかよ⁉︎」
「勝手に成仏させるなよ!」
黒猫はそう叫ぶと、鳥居の上から軽やかに飛び降りて来た。心乃香が慌てて黒猫に歩み寄ると、黒猫は心乃香の方に駆け出した。
心乃香は、黒猫を抱え上げて抱きしめた。
「心乃香……苦しいよ」
「ごめん……でも何で?」
「ボクも成仏したと思ったし、あのまま消えてもいいと思ったんだけど……ここは彼女の大切な場所だったし、彼女の代わりに見守ってやってもいいかなって、思ったら……」
「思ったら?」
「……ボク、本当に神様になっちゃったみたい!」
ハハハと、黒猫は心乃香に抱かれながら得意げに言った。
「それに、お前たちのことも心配でほっとけないし? 早速、斗哉が心乃香に嫌がることしてたし……」
「いや、アレは……」
斗哉は真っ赤になって狼狽えた。黒猫はフフンとジト目で斗哉を一瞥すると、心乃香の胸に抱きついた。
(……こいつ!)
「心乃香、もう大丈夫。大体、斗哉が不甲斐ないのが悪いんだから。心乃香は何にも悪くないよ!」
そう言いながら、黒猫は器用に斗哉にあっかんべーをかました。
「おい、もう如月から離れろ!」
「何? 猫にヤキモチ? ダッサー! 心乃香、こんな男やめた方がいいんじゃない?」
二人のやり取りを見て、心乃香かは可笑しくて笑いを堪えられなかった。
ああ、何て幸せなんだろう。
一生に一度かもしれない勇気を振り絞って、斗哉をお祭りに誘って、告白して良かったと、本当に良かったと思った。
呪いのような出来事も、見方によっては幸福に変わるのかもしれないと、それを気付かせてくれた、斗哉と黒猫に、心乃香は改めて感謝したのだ。
心乃香は、辺りに夏の虫の鳴き声が、響いていることに気が付いた。
――この虫の鳴き声のように、先程まで上がっていた花火のように、いつかは終わりが来るかもしれない。
でも今日の記憶は、この想いは自分の中で『永遠』になったと確かに感じていた。
おわり
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