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8話

「本当にごめんなさい……! 私、なんて言ったらいいか……!」


 マリベルは頭を下げて私に謝ってくる。

 マリベルの声は今にも泣き出しそうなほど震えており、申し訳なさそうだった。

 周囲の見ていた生徒が、公爵令嬢であるマリベルが頭を下げて謝罪したことでにわかに騒がしくなる。

 私は何でマリベルに突然謝罪されているのか困惑しながら、私は慌てて顔を上げるようにマリベルに言った。


「お、お顔をお上げください!」


 家格が上の相手に頭を下げて謝らせるなんて、私とハートフィールド家の評判に差し障る。

 しかも相手はとても腰が低いのだ。

 朝から起こった騒ぎは生徒の間に伝わっていき、周りに人だかりができ始めた。


「でも、私のせいでエリオット様と婚約破棄したんでしょう……!」

「なっ……!?」


 マリベルの言葉に、私は驚愕する。

 真っ先に思い浮かんだのは「どこからそれを聞いたの?」という疑問だった。

 婚約を破棄した件はまだ公表されていない。

 一昨日、バルコニーには私とエリオットしかいなかったため、あの時の会話を聞かれていたと思えない。

 そして私は婚約破棄のことについて、誰にも話していない。リリスには少し事件があったことを話したが、まだ婚約破棄したことは話していない。

 両親も誰かに話したりはしていないだろう。

 つまり、婚約破棄の話は……。


(エリオット……貴方から話したのね……)


 私は正直、目眩がしそうだった。

 本来なら婚約破棄を他人に話すのはあり得ない。

 デリケートな話題であるし、まだ問題が解決していないのに誰かに話したら余計に問題が拗れる場合ある。そもそも婚約については秘密にするのが常識だ。

 つまりマリベルに婚約破棄を話したのはエリオットしかいない。

 私の内心を察してか、重ねるようにしてマリベルは謝ってくる。


「ごめんなさい……! 私が無理矢理エリオット様から聞き出したの! だって、一昨日私の元に戻ってきたら、とてもひどい顔をしていたんだもの。どうしても気になってしまって……!」


 私が婚約破棄を突きつけてパーティー会場から帰った後、エリオットはどうやらマリベルの元へと戻ったらしい。

 それも信じられないことだが、それに加えてエリオットは婚約破棄の件についてペラペラとマリベルに伝えたようだ。

 私は本当に頭痛がしそうだった。


「私、本当にそういうつもりはなかったの! ただ単にエリオット様とは友人として仲良くさせてもらっていただけで、二人の仲を裂きたかったわけじゃ……っ!」


 今にも泣き出しそうなマリベルを見て、どんどんと周囲の生徒にマリベルに対する同情が集まった。

 中には「マリベル様可哀想……」と呟いている生徒までいる。

 マリベルは婚約者を侍らされている令嬢にはすこぶる評判が悪いが、他の生徒には外面が極めて良いため、マリベルの評判は賛否が真っ二つに分かれている。

 つまり敵も多いが、味方も多い。

 どちらかといえば味方の方が多いだろう。


「どれだけ謝っても私のしたことは許されることではないと思う。だけど、セレナ様にはどうしてもそんなつもりはなかったことだけは知っておいてもらいたくて……!」


 マリベルの言葉に私は内心で眉を寄せた。

 つまりマリベルの言いたいことを要約すれば、「私のせいで婚約破棄になったけど、私には責任はないよね?」ということだ。


(何を馬鹿なことを……そんな言い逃れをしたって、問題大アリに決まってるじゃない)


 マリベルに責任がないわけが無い。

 他人の婚約者を連れまわすことは明らかな問題だ。

 それに公爵家には過去に一度、私は抗議をしている。

 しかしマリベルが周囲に泣きついて、それに義憤を燃やした周囲の貴族の生徒が私を糾弾し、なぜか私が責められることとなり、それを見た他の令嬢はマリベルの行動に不満を持ちつつも、抗議ができないという状況になったが、マリベルには抗議をしたという事実があるのだ。

 

「その件に関しては、私からは何か言えることはありません」


 私が選んだのは沈黙だった。

 と言うか、沈黙しか選ぶことができなかった。

 ここで許さないと言えば角が立ち、私の評判が悪くなるし、許すと言えばそれはそれでマリベルをなんのお咎めもなく許してしまうことになる。それは私は嫌だ。

 だからここでは私は何も言わないのが正解だった。


(それに、あなたの目的は分かっているのよ)


 マリベルの目的は私から「許す」と言う言質を引き出すか、反対に私にマリベルを責めさせ、被害者を演じることだ。

 どちらにしても私の立場が悪くなる。

 だから私はどっちつかずの答えを返した。

 マリベルはまだ自分が責任を追及される余地があることを察知したのか、悲しそうな表情になった。


「そんな……! どうあっても許してもらえないのね!」


 そしてマリベルは私の言葉を強引に解釈して、許してもらえなかった、という方向に誘導しようとしてきた。


「ですから、私から言えることは何もありません。許すとも、許さないとも今ここで申し上げることは出来ません」


 これ以上話を誘導されるのも面倒臭いので、これ以上の解釈の余地がないように私はキッパリと断言する。

 するとマリベルは驚きの行動に出た。


「何なら、私がセレナ様とエリオット様との関係を戻せるように協力するから……!」

「……は?」


 私は思わずそんな声が出た。


 貴族の婚約関係に他家の貴族が横から口を出すなんて、いくら公爵家といえども無礼以外の何ものでもない。

 加えてマリベルは今回の婚約破棄の原因の一人であることを踏まえると、マリベルの言葉はハートフィールド家に対する挑発と取られても不思議ではない。

 そんなマリベルの言葉に対し、私が言い返す前にリリスが助け舟を出してくれた。


「マリベル様、流石に他家の方が婚約関係に口を出すのはいささか度が過ぎると思うのですが」


 リリスは口調と言葉に明確に非難の色を込めてマリベルを注意する。

 マリベルが私の元にやってきてから、静かに見守っていたリリスだが流石にマリベルの横暴を見過ごすことはできなかったようだ。

 私としても同じ公爵令嬢であるリリスが味方してくれるのはとてもありがたい。

 そして、私も一言マリベルに物申そうとしたところで……


「酷い……! 私はただセレナ様のために力を貸そうと思っただけなのに……っ!」


 するとマリベルは瞳から涙を流して泣き始めた。

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― 新着の感想 ―
わー気持ちわる。 そして気持ち悪い分だけ結末と途中のやらかしに期待してしまう
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