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7話

 サンダーソン侯爵家は私の望みを全て呑むことになった。

 今回の婚約破棄の一件についての経緯の発表は事態の整理が終わり次第、直ぐにでも発表することをサンダーソン侯爵は約束した。

 エリオットは最後まで私との婚約を戻したいと言っていたそうだが、私は全く心を動かされることはなかった。

 そしてサンダーソン侯爵家との話し合いが終わり、翌日。


「本当に学園に行くのか……?」

「今日くらい休んだっていいのに……」


 私が学園に行くと告げると、両親は心配そうに聞いてきた。

 昨日、一昨日といろんな事があったので、心配する気持ちは分かる。

 しかし私は首を横に振った。


「いえ、婚約破棄された今、きちんと勉学だけは修めておきたいので」

「そう? でも、辛くなったらすぐに戻ってきてもいいのよ」

「はい。それでは行ってきます」


 私は荷物が詰め込まれた鞄を手に持つと、馬車へと乗り込み、学園へ向けて出発した。


 学園に到着して馬車を降りた途端、嫌な予感がした。


(何でこんなに注目されてるの……)


 私に対する視線がすごく刺さってくるのだ。

 元々侯爵家という立場上、それなりに注目されることはあるのだが、それにしたって今日の注目のされ方は異常だ。

 中には私を見てヒソヒソと話している生徒までいる。


(エリオット様との婚約を破棄したことはまだ発表されてないから、注目されるようなことなんてしてないんだけど……)


 少し気味の悪さを感じながら歩いていると、肩をポンと叩かれた。


「セレナ」

「リリス……」


 私の肩を叩いたのはリリス・ドラクシス公爵令嬢だった。

 彼女は私の親友であり、心を許して話すことができる数少ない人物でもある。

 白く日光を反射する銀髪に、深い青色の瞳。

 容姿は恐ろしいほど整っており、まるで女神のように神秘的なリリスには美があった。

 リリスは可愛らしい笑顔を浮かべながら私に挨拶の言葉を述べた。

 私は挨拶の返事を返す。


「おはようセレナ。今日もいい天気ね」

「ええ、私もそう思うわ」


 私は軽い口調でリリスに返事を返す。

 リリスは公爵家で、本来家格の低い私ではこんな風に口を利くのは駄目なことなのだが、リリスが私には気さくな口調で接するようにお願いしてくるので、いつの間にかこんな風に気さくに話すようになった。

 リリスも貴族同士の会話は堅苦しいので、私との会話くらい敬語を外して会話がしたいらしい。


「あれ……どうしたのセレナ。元気が無いわね。昨日は学園を休んでたみたいだし、何かあったの?」


 リリスは私が元気が無いことを鋭い観察眼で見抜いてきた。

 親友の観察眼に少し恐れを抱きながら、私はため息をつく。


「……うん、そうなの」

「そういえば……一昨日は学園のパーティーがあった日よね?」


 そこまで言って、リリスは気がついたようだった。

 エリオットが私に何かをしたのだと。

 元々リリスにはエリオットのことを何回も相談したことがある。リリスにとっては私とエリオットの間に何かがあったのを察するのは容易いことだろう。


「……もしかして、エリオット様がまた?」

「……うん」


 私は頷いた。


「何てこと……パーティーを欠席しなければ良かったわ。それなら私もセレナと一緒にエリオット様に抗議ができたのに……」


 リリスは眉を顰めてエリオットに対して怒っていた。

 私のために怒ってくれることに嬉しさを感じながら、私はリリスにお礼を述べた。


「ありがとう、リリス。またお昼に私の話を聞いてくれる? 詳しいことはそこで話すから」

「ええ、セレナの話ならいくらでも聞くわ」


 リリスは優しく微笑んで頷いた。

 私はその笑顔に少し救われたような気持ちになった。


 そして学園の校舎の中に入り、廊下を歩いていると。

 さらに私に刺さる視線が多くなった。

 私はリリスにその事を聞いてみる。


「そう言えば、今日はやけに注目されるの」

「そうなの? 私は特に変わらないと思うけど……」

「それは……」


 それは、リリスが綺麗だからだよ、と言いかけてやめた。

 言葉にしてしまうと残酷な現実を突きつけられて、落ち込んでしまいそうだったからだ。


「でも、確かに変ね。いつもより学園の中の雰囲気がおかしいような……」


 リリスも学園の中の変な空気を感じ取っていた。

 そして私の教室の前までやって来ると。


「……っ」


 私は立ち止まった。

 教室のドアの前に会いたくない人物が立っていたからだ。

 ふわふわの金髪に、いかにも可愛い子ぶった鼻につく仕草。

 マリベル・シュガーブルームが扉の前に立っていたからだ。


「あっ! セレナ様!」


 マリベルは私を見つけると、急いで私の近くへとやってきた。


「ごめんなさいっ! 私、そういうつもりじゃなかったんです!」


 そして廊下に響き渡るような大きな声で私に謝ってきた。

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