61話
「はぁ……ミシェル様はどこに……」
私は先ほどと同じく、校舎の二階にあるバルコニーでため息を吐いていた。
ここは人通りの多い中庭を見下ろすことのできるバルコニーで、ミシェルを見つけられなかった私は、ここを通ってくれないかという半ばあきらめ混じりの祈りを込めて、中庭を通る生徒を観察することにしたのだった。
「ん? あれは……」
その時、下の中庭を挟んだ一階の渡り廊下になっているところに、とある人物を発見した。
「あれは……ミシェル様」
遠目からでもわかる。あれはミシェルだ。
ようやく見つけた。このチャンスを逃すわけにはいかない……!
私はすぐにミシェルの元へと向かった。
「えっと……さっきはこっちにいたけど……」
私は先ほどミシェルがいた渡り廊下のあたりで、キョロキョロとあたりを見渡す。
「まだ近くにいるはず……」
ミシェルが歩いていた方向に行くと、ちょうど廊下を曲がろうしているミシェルがいた。私は小走りでそのあとを追いかける。
だがミシェルの歩く速度は速く、なかなか追いつけない。何度も角を曲がり、姿を消すミシェルを追うことで精一杯だった。何度も角を曲がったせいで、もはや帰り道すら怪しくなってきた。
そしてミシェルは次第に私でも来たことのないような場所へとやってきた。
(あれ? まだ留学してきて一ヶ月くらいなのに、どうしてこんな道を知ってるんだろ……?)
学園は広いので、一年以上通っている私でも校舎の隅々まで知っているわけではない。だから当然私が知らない場所や施設だってあってもおかしくないのだが……留学してきてすぐのミシェルがこんな場所を見つけることは、果たして可能なのだろうか?
私の心のなかに湧いた疑問は、すぐにかき消えた。
ミシェルがとある部屋のなかに入っていったからだ。
「よかった……やっと……」
昼休みの間ミシェルを探して歩き回っていたせいで、かなり体力が消耗していた私は、ようやくこの追跡劇が終わることに安堵の息を吐きながら、ミシェルが入った部屋へと近づいていく。
きちんと閉じるのを忘れていたのか、ミシェルが入った部屋の扉は少しだけ開いていた。
そこから声が漏れ出てきている。どうやらミシェルは誰かと会話しているらしかった。
(あれ、誰と会話してるんだろ……)
特に深く考えず、扉の隙間から部屋のなかを覗き見てみる。
部屋のなかにいたのは、ミシェルと……執事のオリバー・アシュモアだった。
「ミシェル様、お帰りなさいませ」
どうしてこんなところにミシェルが、と考えている間に二人が話し始めたので、私は会話に意識を集中することにした。こんな盗み聞きみたいなことは悪いとは思ったけど、この時の私はどうしてもこの会話を聞かなければならないような気がしたのだ。
制服のネクタイを緩めたミシェルは、乱暴な仕草で椅子に座った。いつも身だしなみが完璧なミシェルのイメージとはかけ離れた行為に、私は少しだけ驚いた。
「はぁ……疲れた……」
(えっ……?)
その声を聞いた瞬間、硬直してしまった。
いつも丁寧で穏やかな彼とは思えないような冷たい声だったからだ。椅子に座る表情からは笑みが消え、背筋の凍るような冷たい表情を浮かべていた。
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