52話
手持ち無沙汰になったので、私はリリスを探そうと移動することにした。たしか、リリスもこのパーティーに出ると言っていたはずだ。
リリスはめったにパーティーには顔を出さないので、ドレス姿はかなり貴重なのだ。この機会にちゃんと姿を拝んでおかないと。
パーティー会場のなかを歩いていると、ひときわ人だかりができているところに出くわした。
嫌な予感がして恐る恐る人だかりの中心を見てみると、その予感は的中した。
中心にいたのはミシェルだった。十数人の令嬢や夫人がミシェルを取り囲み、「ダンスはお得意ですか」だとか、「婚約者はいらっしゃるのですか」などの質問を、次々にミシェルに対して投げかけている。多分、令嬢たちは皆、ミシェルから踊りに誘われたいのだろう。
ミシェルは表面上にこやかに対応しているものの、その笑顔にはほんの少し疲労が混じっていた。
どうやら、まだオリバーの助けが来ていないらしい。
さっき彼と行き合ってからかなり時間が経っているので、私は不思議に思った。
するとその時、ミシェルと目が合った。
ミシェルは目を見開いて、何かを思いついたかのような顔になると、「ちょっと失礼」と優しく人だかりの女性に謝って……私の方へと歩いてきた。
(えっ? えっ……!?)
私が困惑していると、ミシェルは私の前で跪いて……手を差し伸べてきた。
「セレナ嬢、私と一曲踊っていただけませんか?」
ミシェルの言葉に周囲の令嬢や夫人たちはざわめき立つ。
「えっ……はっ?」
私は目をまん丸に見開いた。
しかし少し驚いたものの、私はすぐに理解した。
ミシェルの目に「一旦質問攻めから解放されたいので、申し訳ありませんが話を合わせていただけないでしょうか……!!」とありありと書かれていたからだ。
その必死な目を前にして、私は首を横に振ることはできなかった。
それに、ノクスはミシェルを信じている私を信じると言ってくれた。
彼が危険人物だから私から遠ざけようとしていたのであれば、その疑いが晴れた今、ミシェルと一緒に踊るくらいは気にしないだろう。
「わかりました……」
私は手を取って踊りの輪のなかへと加わっていく。
「すみません、ありがとうございます……」
踊っているとミシェルは少し疲れたような表情で謝ってきた。
「いえ、ずいぶんと質問攻めにされていましたね」
「ええ、そうなんです。実はパーティーが始まってからずっとあの調子で。少しだけ息抜きをさせてください」
さすがにこういったダンスは慣れているのか、ミシェルはリードが上手かった。
最初は緊張していた私も、次第にリラックスして踊れるようになってきた。
ミシェルが踊っているということで、注目がミシェルと私に集まってくる。
「ミシェル様、素敵……」
「まるでおとぎ話の王子様みたい……」
涼しい顔で踊るミシェルに、女性陣はうっとりとした目を向けている。
無理もない。ノクスという婚約者がいる私から見ても、今のミシェルは恋愛物語に出てくるような王子に見えたのだから。
ダンスが終わる。
「ありがとうございました。セレナ嬢」
「いえ、私も楽しかったです」
にこりと笑って私は人の輪のなかに戻っていこうとする。
しかしその手をミシェルに握られ、引き止められた。
11/11より、『貴方に未練はありません!』の2巻が発売となります!
ぜひ見ていってください!
https://amzn.asia/d/hTxOKHY
『貴方に未練はありません!』のコミックス1巻が発売中です!!
ぜひ皆さん見てください!
https://amzn.asia/d/cvWcIMj




