48話
禁忌とされている薬。
一つしかない。マリベルが令息や令嬢を操っているのに使用していた禁薬だ。
「ミシェル様は……禁薬について知っているのですか?」
私の問にミシェルは頷いた。
「どうしてあそこまで周囲に貴族が集まるのか疑問に思って、独自に調べてみました。そうすると……いくつか怪しい点が出てきたんです」
ミシェルは深刻そうな表情で、マリベルのおかしな点を語っていく。
「本来なら、ポッと出の貴族が社交界で信用も味方も得られるはずがありません。ですが彼女はどちらも得るのが早すぎる。たった半年間で、社交界のなかで味方を作り一つの地位を築き上げました。本来ならありえないことです」
ありえないほどの求心力。傍から見ていて疑問に感じるほどの人気ぶり。そして命令に絶対に背かない取り巻きたち。
普通ならカリスマ性があるのだと思うのだろうが、私はその求心力のカラクリを知っている。
「それは……たしかに禁薬を使っているでしょうね」
ミシェルの話を聞く限り、マリベルが禁薬を使っているのは確定だ。
「少なくとも彼女が何らかの形でレイヴンクロフト王国に報復しようとしているのは確実です」
「それで私に知らせてくれたのですね……ありがとうございます」
「……」
「あの……ミシェル様?」
私の顔を見て何か考え込むような表情を見せたミシェルに、私は首を傾げて尋ねる。するとミシェルはパッと笑顔を浮かべて首を振った。
「ああいえ、すみません。それほど重要なことではないのですが……一つ質問してもいいでしょうか」
「はい」
質問? 何についての質問だろう。
「あなたにとって、ノクスはどういう存在ですか?」
「どういう存在……」
ミシェルの質問に、私は顎に手を当てて考える。
私にとってのノクスは、一言で表すのは不可能だ。
「私にとってノクス様は大切な婚約者であり……大好きな人です」
私はミシェルの瞳をまっすぐ見つめてそう答えた。
答えを聞いたミシェルは、一瞬表情を強張らせ、だけどすぐに顔を緩めた。
「……それは、素敵ですね」
「ありがとうございます」
私もミシェルに微笑み返す。私たちの間の雰囲気が少し和らいだ。
その時、私はあることを思いついて、ミシェルに質問した。
「私からも一つ質問してよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
「どうしてミシェル様はそんな重要な情報を教えてくれたんですか? 私たちはただの同級生ですよね?」
「私も、国同士の戦争をなんとしてでも回避したい、というのが一つ。両国の関係がいいに越したことはありませんから。二つ目はあの禁忌とされている薬が使われていること。我が国の貴族が操り人形にされているのは、なんとしてでも救い出さなければなりません。そして最後は……友人に危険が差し迫っているのをただ傍観するのが嫌だっただけです」
ミシェルは照れくさそうにそう答えた。
「ありがとうございます。そう言ってもらえて嬉しいです」
私がそう言うと、ミシェルの笑顔が少し悲しみの色を帯びたような気がした。それがなぜなのか私にはわからなかった。
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