47話
私とミシェルは一緒にカフェに来ていた。
もちろん、私もミシェルも変装に変装を重ねて、全くの別人に見えるようにしている。
これは私とミシェルが一緒にいるのを他人に見られて、ノクスや他の人間に変な誤解を受けないためだ。事情を説明するとミシェルも快く変装を受け入れてくれた。
そうして別人となった私たちは、落ち着いて話をするために個室のサロンに入った。
このサロンはハートフィールド家の息がかかっており、本当に誰にも聞かれたくないような話をする時に使う場所だ。
ここなら秘密は絶対に漏れないし、防音がしっかりしているので誰かに聞かれるような心配もない。
「それで、ノクス様に危険が迫ってきているというのはどういうことなんですか」
「まぁ待ってください。まずはシルヴァンディア王国のなかでのマリベル・シュガーブルームについて説明させてください」
詰め寄る私にミシェルは両手で「落ち着いて」のポーズをとり、そして両手を組んだ。
「彼女は今は、国のなかで貴族として活動しています」
「えっ」
信じられないような言葉だった。
なぜなら、マリベルは現在亡命中のはずで、それも禁薬を使っているという大罪を犯しているのだ。
おいそれと公に貴族として振る舞えるはずはないのだけれど……。
「彼女はシルヴァンディア王国の王族と血縁である、という地位を利用して伯爵の地位を得ました。一応、名前は変えていますので、恐らくはレイヴンクロフト王国側はそのことを認知していないはずです」
「なるほど……名前を変えられているのですか。どんな名前なのでしょう」
「彼女は現在、イザベラ・ローゼンベルグと名乗っています。私は一度パーティーで出会っていたので彼女の顔を知っていましたが、ほとんど面識のないシルヴァンディア王国の貴族では、彼女がマリベル・シュガーブルームだと気づくのは無理でしょう」
わからなくもない。マリベルの名を知っていても顔を知っている人間は少ないなら、別の人間になりすますのだって可能だろう。
「そしてイザベラ……もといマリベルは今、社交界での動きが怪しいんです」
「怪しい、ですか」
「はい。彼女は今、王族と血縁であるという立場を利用して、社交界で急速に味方を集めています」
社交界で味方を集めている。それだけなら特にノクスに危害が加えられるようには思わないけど……。
「彼女は亡命中で、貴族としての立場もいまだ危うく、王族の血縁という立場を利用して仲間を募るのは普通のことです。ですが……」
「何かおかしな点が?」
「彼女は今、社交界にて集めた仲間の令嬢、令息を中心にレイヴンクロフト王国に対しての悪評を広めているんです」
「それは……」
私はミシェルの言わんとしていることを理解した。
ミシェルは頷いて説明を続ける。
「そうです。今、シュガーブルーム家の問題で、シルヴァンディア王国とレイヴンクロフト王国の関係は緊張しています。そのなかでレイヴンクロフト王国の悪感情を煽っているとなると、彼女は今──戦争を起こそうとしているのかもしれません」
「そんな……」
私は「そんな馬鹿な」と言いそうになって、口を閉じた。
いや、ありえる。マリベルなら、戦争を起こそうとしているという予想は十分ありえる。なぜなら、自分の欲望のためだけに禁忌とされている薬を使い、令嬢や令息を操っていたのだから。
「それが……ノクス様に危険が差し迫っているということなのですか?」
「それもあります。ですがもう一つ。その彼女が貴族を味方につけているという点についてですが……」
これはいくらサロンのなかで誰にも聞かれないとはいえ、それでも聞かれたくないことなのか、ミシェルは少し身を乗り出して小さな声で囁いた。
「……禁忌とされている薬が使われている痕跡があるのです」
「!!」
私は目を見開いた。
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