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【書籍化&コミカライズ化!】貴方に未練はありません! 〜浮気者の婚約者を捨てたら王子様の溺愛が待っていました〜  作者: 水垣するめ
一章

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28話


 翌日、私はうなされていた。

 ぐるぐると頭の中で昨日のノクスの言葉が回っている。

 あの時の言葉だけがずっと頭の中で反復している。


「一睡もできなかった……」


 あれから帰った後も、ずっとノクスの言葉の意味を考えて眠ることができなかった。

 おかげで絶賛寝不足中で、目の下には薄く隈ができている。


「昨日の言葉の意味って、本当はどういう……」


 私はそう呟くが、結局のところ意味はもう十分すぎるほどに理解している。

 どんなに考えても、あの状況ではやはり意味は一つしかない。


 じゃあ、今まで私を学園まで送ったり、妙に私に優しかったのは、私を好きだったからで……。

 ノクスが私を好きだったというのは、とても驚いたが、嫌な気持ちにはならなかった。

 それよりも、何だか心がふわふわした気分になるというか……。


 考えている内に翌日になり、私はぼーっとしたままメイドに髪を梳いてもらっていた。


「お嬢様、ノクス様がお越しです」

「えっ」


 気がつけばノクスが私を迎えにくる時間になっていたようだ。

 どうしよう。まだ心の準備ができていない。


「さ、ノクス様が待ってらっしゃいますよ。お待たせしてはいけません!」


 事情を知らないメイドが私の背中を押して部屋から出させる。

 そしてたちまちノクスが待つ部屋へとやって来てしまった。

 メイドは私に心の準備をする時間なんてくれずに、すぐに扉を開けてしまう。

 扉を開けて、私の姿を確認したノクスはソファから立ち上がった。


「セレナ」


 ノクスの顔を見た私は息が詰まりそうになった。

 どうしよう……いつもよりノクスの顔が輝いて見える。

 元々ノクスは顔が整っているのだが、今日に限ってはそれがより強い。

 ノクスの仕草が、優しい微笑みが、全てが私の心を締め付ける。

 私はとても緊張しながらノクスと顔を合わせたのだが、ノクスの方は全く緊張していなさそうな顔だった。

 自然に私の手を取ると、あたふたしている私を馬車へと乗り込ませる。

 たちまち馬車に乗せられた私はノクスと二人きりになって、何も話せないくらい緊張していた。

 そんな私を見てか、ノクスは無理に私に話しかけることはなく、学園へと到着した。


 そしてノクスは私を教室へと送り届けて。

 授業の間に私に会いに来て。

 昼休みになるとまた私に会いに来て。

 学園での授業時間が終わるとノクスがまた私を馬車で屋敷まで送って。

 夕食を食べた後、そのままベッドで眠りについて。

 そしてそのまま何事もなく一日が終わった。


「えっ?」


 翌朝起きた私の第一声はそれだった。

 余りにも何も起こらなすぎて、私は逆に驚いていた。

 昨日ノクスから聞いた言葉が嘘ではなかったのかと思うくらいだ。

 いや、もしかして本当に昨日のことは私の夢だったのではないだろうか。

 そう思った私は居ても立っても居られず、生徒会のサロンの個室でノクスに質問した。


「その……聞いてもいいですか……!?」

「どうした?」

「せ、先日、ノクス様がおっしゃったことなのですが……」

「どれだ?」


 ノクスは首を傾げる。


「その…………私が…………好きだと」

「それがどうした」


 私は勇気を振り絞ってそう聞いたのに、ノクスは至って自然体だった。


「ほ、本当に……?」

「嘘をつく必要があるか? 俺は正真正銘、お前のことが好きだ」

「っ……!」


 面と向かって好きだ、と言われて私の顔が熱くなっていくのが分かった。


「い、いつから私のことを……?」

「五年前だ」

「えっ……五年前?」


 私はノクスの言葉を疑った。


「いいや、俺とお前の面識はある。五年前にあったパーティーを覚えているか?」

「五年前のパーティーですか……」


 確かに王家主催のパーティーに出たような気がする。


「ああ、五年前のパーティーで俺はお前に出会って、それから恋心を抱くようになったんだ」

「申し訳ありません。何も覚えていなくて……」

「いや、それも仕方がないだろう。あの時、俺はウジウジと悩んでばかりで、今とは別人だったからな」

「別人……」


 ノクスがウジウジと悩んでいる姿なんて、あまり思いつかない。


「俺は当時、第二王子としての役目に悩んでいた。俺の兄と姉はすでに婚約者が決まっていたが、俺の婚約者はまだ決まっていなかった」


 ノクスの兄である王太子の第一王子と、長女の王女はすでに婚約者が決まっていた。

 ただ、当時十一歳のノクスはまだ婚約者が決まっていなかった。


「そして、当時俺の婚約者の最有力候補はマリベルだった」

「それは……」

「俺は、どうしてもあいつと婚約するのだけは嫌だった。あいつが見ているのは俺の顔、地位、権力だった。婚約すれば、こんなやつと一生を添い遂げなければならないという事実がとても苦痛だった」

「でも……リリスは候補ではなかったのですか?」


 リリスは公爵令嬢であり、ノクスの婚約者の候補になったはずだ。

 しかしノクスは首を横に振った。


「リリスは俺と血が近すぎる。婚約はできても子供を為すことはできないとして、リリスは候補を降りた」

「そうだったんですね」


 リリスとノクスが仲が良かった理由がわかった。

 元々リリスは婚約者候補であり、そのため幼少期からの交流があったのだろう。


「話を戻すが、俺はマリベルと婚約者になることは嫌だった。しかし、俺は王族だ。貴族と婚約し、子を残すのは義務だ。自分だけが嫌だと思うだけでその義務を放棄するわけにはいかない……とそう思っていた」

「思っていた?」


 思わせぶりな言葉だ。


「その思い込みを破ってくれたのは……お前だ」


 ノクスは私を指さした。

 予想外の言葉に、私は目を見開く。


「えっ、私ですか?」

「やっぱり覚えてないか」


 ノクスは少し寂しそうな顔で笑った。


「俺とお前が出会った時のパーティーだが、実は俺の婚約者を選ぶためのパーティーだったんだ」

「そうだったんですか!?」


 まさか何となく出ていたパーティーがそんなに重要なものだったとは思わず、私は驚愕した。


「俺は会場の隅でずっと悩んでいた。このまま婚約者を選ぶべきなのかを。そこで、お前が俺に話しかけてきた。そして俺に何に対して悩んでいるのかを聞いてきた。王族であることをぼかしながら事情を話すと、お前はそれを鼻で笑った。『自分の未来は自分で掴み取るものよ!』と」

「え、えぇ……!?」

「その上『ちゃんと両親に聞いたの? 嫌なものは嫌だって言わないと、いつまで経っても誰かの言いなりだよ』とも言っていた」


 恐らく本当に私がそう言っていたのだろうが、自分で言っていて驚く。

 ノクスが王族だとは知らなかったとはいえ、まさか自分がそんなことを王族に言っていたなんて……。


「俺はその考え方に感動してな。父上に自分の婚約者を自分で選びたいと言いに行ったんだ。すると王太子も王女も婚約者がいるので、好きにすれば良いと言われた。それから俺は自由に婚約者を選ぶことにして、マリベルからの婚約の申し出は全て断ることにした、というわけだ」

「そうなんですね……」


 自由に婚約者を選びたいと国王に嘆願して、まさか本当に自由になってしまうとは。

 当時の私が聞いても驚いたに違いない。


「マリベルがあそこまで男を侍らせているのは、当時俺に確実に選ばれると思っていたのに選ばれなかったことのコンプレックスの裏返しだろう」


 マリベルについて、なぜあそこまで他人の婚約者を侍らせていたのか、私の中で理解が深まった。

 きっとその時の屈辱を、他人の婚約者を侍らせることで慰めているのだろう。


「だから、セレナの婚約破棄の一件は、原因は俺にあるとも言える。本当にすまない」

「い、いえ。ノクス様のせいではないですよ! 謝らないでください!」


 ノクスが申し訳なさそうな顔で謝ってくる。

 私は慌ててノクスに責任はないと首を振った。

 そして話を変えようと、他の話題がないか頭の中で考える。

 と、そこで私はとある事実に思い至る。


「あれ? ということはまさか、両親に話していたあの五年前の話は……」

「あれは事実だ」


 ノクスはキッパリと断言した。

 そうなると、今までのノクスの不可解な行動がよく分かる。

 そもそも、なぜ私に偽装婚約を持ちかけてきたのか。

 私に対してあんなふうに優しく接してきたのか。


「俺はずっとお前に恋焦がれてきた。だからこそ、付け込むようで悪いとは思ったが、婚約関係が無くなったと聞いた瞬間に婚約を持ちかけた。自分の望む未来を、自分で勝ち取るために」


 ノクスの甘い囁きに、私は頬を赤く染める。

 ノクスが微笑を浮かべて私の頬に手を添える。

 そして尋ねてきた。


「それで、真実を知って、お前はどう思う?」

「それは……私を好きでいてくれたのはとても嬉しいですけど……」


 私は頬を染めて、ノクスから目を逸らす。

 今まで偽装婚約のビジネス的な契約相手だと思ってきたノクスが、いきなり恋愛対象に変わったことで、私はかなり動揺していた。

 しかし、決して嫌な気分ではない。


「俺との婚約を続けてくれるか?」


 ノクスが私に手を差し出してくる。


「……はい」


 私はノクスの手を取った。

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