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2話

「い、一体何を言っているんだ」


 私の言葉を聞いたエリオットの、第一声はそれだった。

 私はエリオットにもう一度同じ言葉を繰り返す。


「もう二度とマリベル様には近づかないでください、と言ったんです」

「そんな、なんで……」

「何で、ですかって? そんなの決まっているじゃありませんか。最近、エリオット様が婚約者である私を差し置いて、マリベル様とずっと一緒にいるからです。はっきり言って、異常です」


 私の言葉にエリオットはムッとした表情になった。


「僕が誰と一緒にいるか決めるのは僕の自由だ! 君にはそんな権利はないだろ!」

「いいえ、あります。私はエリオット様の婚約者です。婚約者が他の令嬢と疑わしい関係を持っていれば当然関係を断つように言う権利があります。それに私が学園で何と言われているのか、ご存じですか? エリオット様の恋を邪魔する悪女だと言われているのですよ?」


 そう、私はエリオットの行動のせいで学園でそんな悪評までついているのだ。

 口を出す権利が無い訳がない。


「僕とマリベル様は別にそんな仲じゃない」

「エリオット様がどう思っているかは関係ありません。傍から見ればエリオット様のされていることはどう見ても浮気なんです。それはご理解されてますか?」


 私がそう言うと、エリオットは呆れたような顔でため息をついた。


「あのさぁ、こう言うのもなんだけれど、その、少し嫉妬が過ぎないか? 僕とマリベル様が少し仲良くしていたからって、浮気って……君がこんなに嫉妬深いなんて知らなかったよ」


 しまいには明らかな嘲笑のようなものをエリオットは浮かべる。


「…………は?」


 私はエリオットの言葉に一瞬思考が止まった。

 そして沸々と私の中で怒りが湧いてくる。


「嫉妬…………そう、嫉妬ですか」


 口から乾いた笑いが漏れた。

 しかしニコリと笑顔を保って、エリオットに質問する。

 笑顔からは怒りが滲み出ていたかもしれない。


「まず、今日の約束を破ったのは、どちらだったでしょうか」

「それは……」

「一度だけなら、まだ許します。ですが、今日みたいに約束を破るのは何回目ですか? もう三回は約束を破っていますよね? その上、私は何度も忠告しました。それなのに、関係を断つように言うのが嫉妬ですか?」


 エリオットはもう何回も約束を破っている。

 私はその度に何度も注意した。

 しかし今日、エリオットは私ではなくマリベルを優先した。

 婚約者の私ではなく、マリベルを。


「エリオット様は、女性がエスコートもなしに一人でパーティー会場に放り出されていることが、どれだけの恥と屈辱を与えているのかを全くご存知ないようですね。私がどれだけ惨めな思いをしたのか、分かっているんですか?」

「それは……」


 私は胸に手を当ててエリオットに問いただす。

 エリオットは私を放り出したことには罪悪感があるのか、言葉を詰まらせた。


「私を一時間も待たせた挙句、他の女性と会場に入ってきて、約束を破った理由が他の女性を優先したからだと言われたら、誰だって怒りますよね? それを嫉妬だと、本気でそうおっしゃっているんですか?」


 私は半ば呆れた顔でエリオットにそう尋ねた。

 それがエリオットの癇に障ったようだ。

 エリオットは私を睨みつけ、怒鳴り出した。


「君はいつもそうだ! 僕にぐちぐちと嫌味ばかり! 婚約者を立てようという気持ちはないのか!」

「……はい?」


 咄嗟に意味を理解できなかった。

 私はエリオットの言葉を呆然と聞いた。

 エリオットがいわゆる逆ギレを始めた。


「いつも真面目なことばかり、君はエスコートがないのを恥だと言うけれど、この状況だって僕にとっては恥だ! そんなことも分からないのか!」


 私が真面目なことばかりを説教しているのは、エリオットの言動があまりにも不真面目だからだ。

 私だって説教したくてしているわけではない。

 それに私の場合は人のいないバルコニーで忠告をしているのだから、エリオットに公衆の面前で一人恥をかかされた私とはまるで状況が違う。

 それなのに、エリオットはまるで私が悪いかのように責め立てる。

 黙って私が聞いていると、エリオットの罵倒はどんどんとヒートアップしていく。


「だいたい、君に魅力が足りないのが悪いんじゃないか! マリベル様と比べたら、君は天と地ほどの差があるじゃないか!」

「なっ……!」


 エリオットの言葉に、私の胸が痛んだ。

 私の見た目は亜麻色の髪に、控えめな化粧で、確かにマリベル様の容姿と比べたら見劣りするかもしれない。

 しかしこの見た目なのには訳があった。


「私のこの見た目は、エリオット様がこれが良いって言ってくれたんじゃない……だから私はずっと目立たないように……」


 そう、この見た目なのはエリオットが「婚約者として綺麗になり過ぎて他の男に注目されて欲しくない」という希望があったから、地味で控えめな見た目にしているのだ。

 私はそう言われた時、とても嬉しかった。だからこの容姿をずっと守ってきたのに……。


「知らないよ! 君の容姿が悪いのは君の努力不足だろ! それなのに、僕の心を掴みきれないのを僕のせいにするな!」

「っ……!? エリオット様! 言って良いこととと悪いことがあります!」


 ついには私の容姿を貶し始めたエリオットに、私は注意する。

 だが、完全に頭に血が上っているエリオットは止まらなかった。

 そして、私との関係に決定的な罅を入れる、致命的な言葉を私へと放った。


「黙れ! もう君との婚約はうんざりだ! こんな婚約するんじゃなかった!」


 ──こんな婚約するんじゃなかった。

 その言葉は私の心にまるでナイフのように突き刺さった。

 私は今までこの婚約を維持するためにずっと努力してきた。

 それなのに、罵倒され、容姿まで貶された私は、ついに…………エリオットへの愛想が尽きた。

 だから、私はエリオットに告げた。


「…………そうですか、なら、婚約破棄しましょう。エリオット様?」


 婚約破棄をエリオットに突きつけた。

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