18話
そしてパフェを食べ終わると、私とノクスは移動してドレスを選びにやってきていた。
「ここは……」
「来たことがあるのか?」
「はい、少し前に…………って、ここ超有名店じゃないですか!」
私とノクスが入ったのは王都の中でも特に有名な服飾店だった。
王室御用達の名高い服飾店は有名なデザイナーを何人も抱えており、王室だけでなく他の貴族もよく利用している店だ。
かくいう私も一度ここでドレスを作ってもらったことがある。
エリオットとの婚約を発表するパーティーを開いた時なので、もう八年以上前のことになるが。
「ここでパーティー用のドレスを作ってもらう」
「いや、こんなに高級なところでなくても……」
パフェは奢ってもらったとはいえ、流石に高級なドレスを買ってもらうのは私も躊躇ってしまう。
しかしノクスは首を振った。
「そんなわけにいくか。社交界における相手の位、財政状況、権威、その他諸々を一番分かりやすく反映するのはドレスの出来栄えだ。下手なドレスを着せたら俺や王室の評判に関わる。流石にドレスの質には妥協はできない」
「はい、そうですよね……」
ノクスの言葉は正しい。従う他ない。
ノクスが店の扉を開けて中に入ったので、私も続いて中に入る。
「と言うわけで、ドレスはオーダーメイドを作るぞ」
「はいはい、オーダーメイドね」
少し疲れたような声を出して奥の方から出てきたのは、ただならぬ雰囲気を纏った老女だった。
彼女の名前はテレシア・アルマイン。アルマイン伯爵家の当主の妻だ。
彼女は貴族でもあり、王国の中でも随一の才能を持ったデザイナーでもある。
前回は私はテレシアにドレスをオーダーメイドで作ってもらったので、当然面識はある。
「あら、以前見た時は磨けば光る宝石だと思ったけど、見ないうちに眩しいくらいに輝くダイヤモンドに育ったわね」
テレシアはニヤリと笑った。
この老女の笑顔には圧がある。
「あ、ありがとうございます……」
「普段なら私の気に入らない相手は想像が捗らないから、ドレスは作らないことにしているんだけどね。この子なら想像力が爆発しそうなくらいだよ」
実は、テレシアは自分の気に入った相手にしかドレスを作らないデザイナーとして、とても有名だ。
私はその試験をどうやら知らないうちに突破していたらしい。
もしかしたらあの地味メイクだったらテレシアにドレスを作ってもらうことはできなかったかもしれない。いや、自然なメイクの方でも怪しかったかもしれない。
私は心の中でちゃんとメイクをしてくれたメイドたちにお礼を述べるのだった。
そしてそのあとは採寸したり、いくつか希望をテレシアから聞かれたので答えた。
紙に私から聞いたことを書き込むとテレシアはニヤリと笑って頷いた。
「よし、これで希望は聞けたね。あとは……そうさね、ドレスだけ作るつもりだったけど、ついでにいくつか服も見繕ってやろうかね。ほら、そこの部屋で試着してみな」
「えっ、でもお代が……」
「どうせそこの王子様がもってくれるよ」
テレシアがいくつか服を私に渡してくる。
私は断る暇もなくその服を押し付けられると、試着室の中へと背中を押された。
振り返るとノクスが苦笑していたので、テレシアの言う通り、服も買ってくれるのだろう。
私は仕方なく黒を基調とした、どことなく大人びた妖艶な雰囲気のある服に袖を通す。
そして、試着室の扉を開けた。
扉の前にはノクスとテレシアが立っていた。
「似合ってますか……?」
私が問いかけるが、ノクスは少しの間無言だった。
(これは……今度こそ照れてる!)
驚いたように目を見開くノクスに、私はいたずらっぽい笑みで問いかける。
「ふふん、どうですか? 私は実は可愛いんですよ?」
「ああ、そうだな。俺もセレナは可愛いと思う」
「へっ!? ありがとうございます……」
呆れた顔で「自分で言うな」と言われるか、もしくはノクスの慌てた珍しい顔が見れるかと思って仕掛けたのに、逆にカウンターを喰らってしまった私は赤面して慌てふためく。
「甘ったるいカップルだね」
テレシアが砂糖を入れすぎた紅茶を飲んだ時のような顔をしていた。
そして気に入った服を購入した私とノクスは、店を出る。
もう外の景色は夕日で赤く染まっており、いい時間になっていた。
別れる前に、私はノクスにお礼を述べる。
「ノクス様、今日は私のわがままに付き合っていただいてありがとうございました」
「お礼をいうのは俺の方だ。俺が急に言い出したことに付き合ってもらったんだからな」
ノクスは首を横に振ったが、私はそんなことはないと思う。
今日は私のわがままに付き合わせてばかりだった。
きっとノクスは気を遣わせないためにこう言っているのだろう。
「今日は楽しかったか?」
「はい、とても楽しかったです」
私は正直にそう答える。
デートすると言われた当初はどうなることかと思ったが、一日を通してみればかなり楽しかったと言えるだろう。
「それは良かった。じゃあ、また学園で」
「はい」
そうして私とノクスが別れようとしたところで。
「あ、そうだ。ノクス様、一つお願いしたいことがあるのですが……」
私はあることをノクスに頼んだ。




