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西の森

ジェシーたち初級クラスの男女八人は、男四人、女四人の二つのパーティに分かれ、深い森の中を歩いていた。


今日は冒険者ギルドから男の人が一人、付き添いでついて来ていて、うるさい男子どもはそのヤンという冒険者につきまとっている。

四人の女子はお喋りをしながら、女先生の後をついて歩いていた。


先生は苔むした大木のそばで立ち止まると、生徒を集め、自生している植物の説明を始めた。


「皆さん、そこの木の根元に生えているのがマンダリン草です。茎にギザギザの葉が互い違いについていますね。これが特徴です。このマンダリン草は傷薬を作るときに使われます。葉をもんで出てきた汁を擦り傷に塗ると、傷が治りやすくなります。この辺りに群生しているようですので、それぞれナイフを出して採取してみましょう」


「「はーい」」


ジェシーは草むらにしゃがみ込むと、家から持ってきていたナイフを取り出して、目についたマンダリン草の茎を切っていった。

ナイフを入れるとすぐに、切り口から透明な汁がポタポタと垂れてくる。

このまま袋の中に入れると中が汚れそうだったので、何本かの茎をひもで縛って、逆さにして袋の中に入れることにした。


側でジェシーがやっていることを見ていた先生が、褒めてくれた。


「皆さん、ジェシーのやり方を見てごらんなさい。よく工夫されていますよ」


「へえぇー、わたしは葉っぱだけちぎってたわ」


「さすがものしりのジェシーね」


女の子たちは感心してくれたが、男子はジェシーが褒められたのが癪に障ったらしい。


「へっ、カトンボは虫だから草にもくわしいのさ」


「そーだそーだ」「カトンボ、ぶーんぶーん」


よくジェシーに食ってかかっては返り討ちにあっているワルスが、また減らず口を叩いた。その子分たちもいつものように囃し立てる。


頭にきたジェシーとミリアが三人をボコろうとしていたら、突然、大声で笑い出した人がいた。子どもたちの護衛でついて来ていた冒険者のヤンだ。


「なんだなんだ、悔しいからって女の子の容姿をからかいのネタにするなんて、お前ら本当に男か? そんなちっせい根性じゃ、さっきなりたいって言ってたA級冒険者になんかなれないぞ」


そう言いながら三人の頭をげんこつでコツンコツンと叩いていった。そしてジェシーとミリアの方を見て、こいつらはバカなんだから許してやれと目で言ってきた。


へぇ、大人の男の人がいると違うもんだな。

いつもは手に負えない男の子たちが、一気に身を縮めてシュンとしてしまった。

ふん、いい気味だ。



ジェシーたち一行は、こんなふうに薬草採取をしたり、たまに見かける動物たちの名前を教えてもらったりしながら、森の奥まで歩いて行った。


「見えてきましたよ。あそこです」


先生が示す方を見て、みんな思わず足を止めて、ポカーンと口を開けて見とれてしまった。


木々が途切れぽっかりと開けた土地に、滾々(こんこん)と水が湧き出ている小さな泉があり、後ろの崖には巨大な岩がそびえていた。その岩からも透明な水が浸み出しているので、岩肌が黒く湿っている。


「スッゲー、おれ一番!」


「ぼくもぼくも!」


「はい皆さん、ここまでよく歩きました。ここでしばらく休憩することにします。危ないですから一人で森の中に入らないように」


「はーい」


みんなは思い思いの場所に持ってきていた敷布を広げると、休憩場所を確保した。

ジェシーとミリアも並べて敷布を広げ、持ってきていたクッキーを背負子から取り出して、お茶を飲むことにした。


「あー、おいしい。ずっと歩いてたからのどがかわいてたのよね」


「そうね、まだ冬の名残がある季節だからいいけど、暖かくなったらここまで来るのにひと汗かきそうな感じ」


ミリアはゴクゴクと水筒のお茶を飲んでいたが、ジェシーの水筒にはほとんどお茶が残っていなかったので、泉の水を汲んでくることにした。


泉の側まで歩いて行ったジェシーは、澄みきった水面にそっと手を差し入れ、凍えそうに冷たい水を一口飲んだ。

その水はスルリと喉を通り、冷たさを残したまま胃の腑に落ち着いた。


「うわぁ、美味しい!」


あまりの冷たさに手が赤くなっていたが、ジェシーは何度も手で水をすくって飲み干した。

やっと喉の渇きが落ち着いてきたので、水筒に水を入れようとして、ふと違和感に気づいた。


え、光ってる?


さっきまで透明だった泉の水の上に、薄い膜を張ったような光の粒子が見える。

水筒から(したた)っている雫も白く光っている。

崖の大岩なんかは、真っ白く発光していて眩しいくらいだ。


「ミリア、ちょっと来て!」


慌ててミリアを呼んだのだが、どうもジェシーだけが驚いているようだ。泉の周りで遊んでいるクラスメイトたちは、誰も異常を感じていないように見える。


「なにぃ?」


ミリアはクッキーを口に入れたまま、のんびりとこちらに歩いて来た。


「急に泉の水が光り出したんだけど……えっとミリア、見えるよね。ほら泉全体が光ってるでしょ?」


「う、ん、そうだね? 日が高くなってきたから、ひかりがはんしゃしてるんじゃないかな。きれいだね、ジェシー」


違う。

こういう反応を求めてたんじゃない。


私の目の方がおかしくなっちゃったの?


ジェシーは目をこすってもう一度、泉を見てみたが、やはり水面に光の粒子が踊っている。


もしかして……私が、泉の水を飲んだから?


「ちょっ、ミリア。泉の水を飲んでみて!」


「えー、まだつめたそうだよ~」


「いいから、ほらっ!」


ブツブツ言っているミリアに泉の水を飲んでもらったのだが、「おいしいねー、でもやっぱりつめたいねー」という言葉しか返ってこなかった。



おかしなことになっちゃった。


帰り道、もっとおかしなことになっていることにジェシーは気づいてしまった。


森のあちこちで、草が光っているのだ。


全部の草が光っているわけではない。

これには何かの法則性があるのかもしれない。


行きがけに採取したマンダリン草の群生地が光っているのを見つけた時に、ジェシーの頭の中で何かが繋がったような気がした。


これって役に立つ草を見分けるためのレーダーみたいなものなのかなぁ?


ということは、何かがきっかけになって、ダーシャが設定した魔力が目覚めたのかもしれない。

でも、こういうのって、なに魔法??

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