牡蠣パーティー
前話(五話目)をだいぶ改稿しました。町の名前ルースも付け足しています。
冬の終わりのこの時期には、必ず親戚一同が祖父の家に集まって、オイスターパーティーが催される。
朝から庭のウッドデッキにはたくさんの机や椅子が並べられて、女の人たちが台所からお皿やグラスを次々と運んできている。男の人たちは、縦割りにしたドラム缶を庭の真ん中に並べていき、端から順に炭をおこしていっているようだ。
ジェシーは弟や小さな従姉弟たちが火に近づきすぎないように気を付けながら、庭の隅にある砂場で遊んでやっていた。
雪で傷んでいたウッドデッキは、大工をしている祖父と叔父たちがこの日のために急ピッチで補修したのだろう、いつの間にか元通りの姿になっていた。
祖父のファベルはこの町で代々続く工務店をやっていて、五人の息子たちとその嫁たちが一緒に働いている。いわゆる親族で営む有限会社といったところだ。
母は下に五人の弟を従える大姉御ということになるのだが、最初に生まれた母だけが一人だけ別の仕事をしている。
母が実家の工務店の後を継がずに、大叔母の嫁入り先の店を継いで町の雑貨屋をすることになったのには、何か訳があったらしい。
大叔母さんはジェシーが生まれる前に亡くなっていたので、ジェシーはその辺りのことはよく知らない。
でも、うちの両親が結婚する時に、もうひと悶着あったって、おばあちゃんから聞いたことがある。
父のルイスは背が高くてガタイがよかったから、おじいちゃんは大工として仕込んでみたかったみたいだ。ただあの放浪好きな父さんが、それをうんと言うはずがなかったのよね。
すったもんだの末に、あわや駆け落ちするしかないかというとこまでいってたんだって。
そこにジャジャーン!
私の登場です。
私が母さんのお腹の中にいることがわかって、初孫可愛さのあまり、おじいちゃんは何もかもをうやむやにしてしまったらしい。
おじいちゃんがそんな気難しい人だったなんて、今となっては信じられない。
ジェシーにとって祖父のファベルは、優しくて何でも言うことを聞いてくれる甘々のじいじなんだよね。
「ジェシー、こっちの用意はできたから、そろそろ遊ぶのをやめて手を洗ってらっしゃい。ランスがちゃんと手を洗ったかどうか見てやってね」
「はーい」
母さんがデッキから声をかけてきたので、ジェシーは子どもたちに遊び道具を片付けるように指示した。まだ小さい従兄弟たちは素直なものだが、弟のランスは最近反抗期なので、ブツブツ文句を言っている。
「チェッ、おれいつもちゃんとてをあらってるじゃんか。いつまでもこどもあつかいするなよな」
……四歳児が子どもじゃなかったら、なんなんだろう。
自分のことを「俺」って言い始めたのは、裏のクソバカの影響よね。まったく、頭が痛い。
ジェシーのことを可愛い声で「ねぇね」と言ってくれてた、あの天使のようなランスを返してほしい。
チビたちがそれぞれのお母さんの所に行ったので、手が空いたジェシーは牡蠣を焼いてくれている叔父さんたちの所へ行ってみることにした。
五人の叔父さんは、ファースト、セカンド、サード、フォース、フィフスと呼ばれている。歳が近い男の子が家の中をウロウロしていたので、名前を呼ぶのがややこしくなったおじいちゃんとおばあちゃんに「一番、二番、……」とあだ名で呼ばれているうちに、それが定着してしまったらしい。
ちょっと酷いよね。
でも、それぞれの結婚式に、お嫁さんたちが自分の夫の本当の名前を知って驚くというハプニングが続いたので、町中の人たちが名前を勘違いしてたみたい。
そんな叔父さんたちの中で、三番目のサード叔父さんにだけは、呼び名がもう一つある。「チャッカマン」だ。「着火男」そのまんまだね。
うちの家族のネーミングセンスって、どうなんだろう。うちの母さんは「アネさん」って呼ばれてるしさぁ。
火魔法を使えるサード叔父さんは、今日みたいなバーベキューパーティーでは大活躍だ。
さっきから、あちこちでサード叔父さんを呼ぶ声がする。
この世界には魔法がある。
けれど誰にでも使えるわけじゃなくて、魔法の才能があるのは百人に一人ぐらいらしい。
この世界には魔法がある。
大事なことなので二回言った。
けれどジェシーには使えない。
陽子はちゃんと転生プログラムに書いてもらったはずだ。
「魔法がある星なんてグッドじゃないですか? ここにしましょうよ」とダーシャが勧めてきたはずだ。
「火、水、風、土、全部の属性が使えたら便利だね。生活魔法程度でもいいから、全部使えるようにしといてくれる?」そう陽子も頼んだはずだ。
はず……なんだけどなぁ。
でもまぁ、仕方がない。
実際問題、四属性どころか一つの属性でも使える人はそうそういないのだ。
あの時に頼んだ通りに、今ジェシーが四つの属性の魔法を使えていたら、みんなに奇人変人扱いをされることになっただろう。
そう自分を慰めながらも、サード叔父さんが使っている火魔法を見ていると、ジェシーはちょっと、いや、とんでもなく残念に思うのだった。